家族法Q&A

民事訴訟法

名誉毀損の表現を含む内容の陳述書の作成により名誉毀損されたことを理由とする賠償請求

1 事案の概要

本件は洛北大学の教授であった藤堂氏が、当時洛北大学の学生であった市橋さんが「私が、藤堂教授から受けたセクハラ・アカハラ被害を受けたことは事実であり」と記載された陳述書を作成し、藤堂氏と第三者である高田氏との間の別件訴訟に書証として提出された。藤堂氏は書証提出により名誉を傷つけられたりして不法行為に基づき慰謝料等を請求した事案である。

 

2 主たる争点

本件は①陳述書により名誉を毀損されたのか、②市橋さんが陳述書を作成し別件訴訟において書証として提出されることを了解したことが違法であるかが問われた。

本件については、①については陳述書により社会的評価が低下されたので名誉毀損は認められました。しかし、訴訟上の活動において証拠を提出する行為自体単体が違法性を帯びるのかという問題があります。

本件については、争点②について、民事訴訟における陳述書が主尋問を一部代替又は補完する機能のみならず作成者の法廷での供述内容を事前に相手方に明らかにする証拠開示機能を有していることからすれば、その真実性の要請のみを過度に重視すべきではないとしました。

シュシュ:陳述書は他の客観的証拠とは異なるということなのでしょうね。たしかに陳述書は証拠開示機能があるとされています。

弁護士:論理的にはつながらないのですが、仮に、訴訟において書証として提出された陳述書に当事者等の社会的評価を低下させる事実や当事者の名誉感情を害する事実が記載されていた場合に、当該事実が裁判所に認定されなかった場合や相いれない矛盾する事実が裁判所に認定されたときに、違法と評価されるかですね。

シュシュ:陳述書の作成者は自己の認識にかかわらず裁判所によって認定されることが確実と思われる事実しか記載しなくなるため、陳述書の前記各開示機能が損なわれると考えられます。

弁護士:このように、当該事実が裁判所に認定されない事実の記載を避けることになると主張立証には大きな萎縮的効果が生じることになります。

シュシュ:そこで、作成者が陳述書記載の当該事実の内容が虚偽であることを認識しつつ、あえてこれを記載した場合に限られるとの規範を示している。この点、裁判所は陳述書については確固たる裏付け証拠がないとしていて信用性が低いとしつつも、本件セクハラ被害が存在しないとの事実又は被告があえて虚偽を述べているという証拠も認められないとしているのです。そして、要件事実をターゲットにして、その他の証拠から本件セクハラ被害がなかったと認めるに足りないと結論付けています。

弁護士:まず、不当訴訟の場合は一つの証拠の出し方の当否について、直ちに違法になるものではないと思われるね。そして、今回は、証拠についてなのですが、陳述書のように証拠単体が問題になる場合は、名誉毀損のケースのみということになりますが、あてはめをみるとわかるように信用性の低い証拠でも、断定的に虚偽ともいえないケースがほとんどと思われます。したがって、大阪地裁平成30年1月11日の規範によると、証拠単体での提出が名誉毀損になるか否かが問題とされています。つまり、客観的裏付けがないというだけでは足りず、陳述書が虚偽であることを要するものとされているわけです。

シュシュ:今回のいいがかり訴訟の理由は、別の別の裁判で、市橋さんの証言が採用されなかったから、本件陳述書の記載がないようが虚偽であり、かつ、その内容を被告が認識したうえの虚偽の陳述書といいたかったようだね。

弁護士:裁判所の重要な判断として、証拠は総合評価して事実認定を行うものであり、ある証言やある陳述書の内容を採用せず主要事実が虚偽となるわけではないとしています。そして、判決の内容や証人又は陳述書作成者が認識したとしても、証人等が当該主張事実を虚偽であると認識するわけではないとしています。判決がAという結論がでたから、絶対にAという主張しか許されないというわけではないというわけです。

 

大阪地裁平成30年1月11日

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