家族法Q&A

憲法

人権の適用範囲と限界

第5章 人権の適用範囲と限界

1 人権規定の法的性格

(2) 日本における議論(3つの次元)

高橋説 日本国憲法の人絹規定は,どの意味においても法的効力を有する

補足説明 高橋説は,立法裁量の広狭の問題に法的性格の議論を還元しているように解される。というのも,高橋説は,②について立法による具体化がなくても,権利性が認められることがあることを認めているし,③のプログラム規定説も単に,立法裁量があまりに広い場合として,②の問題と考えればよいとする趣旨と思われる

① 人権規定は,宣言的意味のものであり,法的効力は持たない

× かつてのドイツ流の解釈で日本国憲法の解釈になじまない

② 人権規定は抽象的性格が強く具体的意味内容を欠き法的効力はない

× 規定の抽象性は,必ずしも法的性格の欠如をもたらさない。日本国憲法には,あまりに抽象度が高く政府のあらゆる行為を許容する(したがって,人権規定として無意味)とみることができる人権規定は存在しない。抽象度が高いということは,立法裁量が広いことを意味しているが,立法裁量には限界がありその限度で法的意味がある

③ 裁判所は,その人権規定を判決の基礎に援用することができるか

裁判所には,違憲審査権があるから,特定の人権規定について裁判所の判断の基礎とすることができないということはないのが原則である。ただし,プログラム規定の場合は例外的に判決の基礎とできない。

× 実定憲法に規定された以上,何らかの法的効力があるからプログラム規定はない

2 私人間における人権の効力

(1) 問題の意味

(ア) 当初の理解

憲法の名宛人は,第一義的には公権力

∵ ① 対国家防御権であることの理由

社会契約説の論理からいくと,憲法の制定とは,社会契約を結んで公権力を創設・組織し,必要な権限を授けかつ制限する行為

② 私人間で憲法の規定が適用されない訳

憲法が制定されると,私法関係を規律するのは法律

(イ) 20世紀的国家観による変化

巨大資本が個人に対して社会的権力を振るうようになった。たしかに,弱者保護のための法律を制定すれば利益調整は可能であるが,社会が必要とする人権保護立法に議会が取り組むことはどうしても遅れがちとなる。そこで,裁判所が私人間の人権侵害について,法律の規定がなくても憲法を適用して救済することはできないかが問題となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 学説・判例(直接適用説・間接適用説の対立の時代)

(ア) 直接適用説

直接適用説とは,人権規定を私人間にも直接適用できる規定であるという立場をいう

∵ そもそも自然権は,社会のあらゆる関係において尊重されるべき権利と考えられていたが,20世紀の法実証主義の思想によりその適用範囲が国家と個人の関係に限定された。ところが,20世紀後期に法実証主義の問題点が明らかになったので原点に戻るべき

* 直接適用説は,私人間関係の種類に関しては,「事実上の権力(私的権力)が一方当事者である場合に限定するのが普通

× 人権にとっての最大の脅威は現代でも国家であり,立憲主義の基本思想を見失わせる

(イ) 間接適用説

間接適用説とは,私人間で人権の保障を図るのは法律の役割であるという論理を維持しつつ,問題の私人間関係に適用しうる適当な法律条文を見つけて,その条文の中に可能な限り人権保障の趣旨を読み込むことにより間接的に人権規定を私人間に及ぼしていく見解

∵ 人権規定が直接適用されるのは,国家権力に対してであるという立憲主義の論理を維持しつつ,私人間における人権侵害の救済をはかろうとする

* 間接適用説が用いる一般条項は,民法90条や民法1条3項が挙げられるが,公序良俗違反や権利濫用と評価されるのは,強者と弱者との間で,強者が弱者の人権を制約する場合

 

(ウ) ステート・アクションの理論

ステート・アクションの理論とは,私人が国と特別の関係にあるような場合,私人の行為を国の行為とみなして,人権規定を直接適用するべきとする理論をいう

 

Ex. 殉職自衛官合祀事件(最大判昭和63年6月1日)

私人である隊友会が殉職自衛官の護国神社への合祀を申請した形となっているが,実際には,自衛隊職員が行ったといってよい状況にあり,隊友会の申請行為は国の行為として政教分離原則に反すると解すべき

 

多数意見

 地連職員(国家)の具体的行為は,各地の護国神社における殉職自衛隊員の合祀状況等を照会して,その回答を県隊友会(私人)に閲覧させ,会の依頼により募金趣意書を起案・配布し,募金を管理し,殉職者の除籍謄本及び殉職証明書を取り寄せたにとどまる。すなわち,地連ないしその職員が直接県護国神社に対し合祀を働き掛けた事実はない。
合祀は,県隊友会がその実現に向けて護国神社と折衝を重ねた結果実現したものにすぎない。本件合祀申請は,実質的にも県隊友会単独の行為であった。これを地連職員と県隊友会(私人)の共同の行為とし,地連職員も本件合祀申請をしたものと評価できない。

 

 

 

裁判官伊藤正己の反対意見

侵害行為の態様を考える場合に,具体的な合祀申請行為を一連の行為と切り離してとらえるのは適当ではなく,全体の経過のうちに総合的にとらえる必要がある。
① 陸上自衛隊のW師団長が開催した中国四国外郭団体懇談会でW師団長が合祀の推進を要望した,② 自衛隊の幹部職員が合祀の祭典の実施に公然と参画し,あるいは合祀実現について積極的な言動をしてきた,③ 地連のA総務課長は,九州各県の地連総務課長にあて,合祀状況を照会する文書を発し回答を得て,これを会に閲覧させた。地連職員の行為は,合祀申請に至る間において,地連職員が深くかかわっていたことを推知しうる。また,社団法人隊友会は,自衛隊諸業務に対する各種協力をその事業の一つとするものであり,県隊友会と地連との関係は極めて密接である。これは,地連が物心ともに協力支援したといえる。本件合祀申請は,県隊友会と地連職員とが相謀り共同して行ったもの

 

(オ) 判例

三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日)は,間接適用説(通説)

昭和女子大事件判決(最判昭和49年7月19日)も踏襲

(カ) 無適用説の再評価

視点 ① 無適用説で救済されない人権はあるか

② 私人間の人権救済の役割は,議会か裁判所の役割か

高橋説 高橋説は,無適用説の論理が立憲主義の適合的であるとしたうえで,法律上の人権規定が存在しない場合については,私人間の人権救済はできないことになると解しているが,現実には法律は存在するのでこのような不都合はないとする。そのうえで,民法90条や709条は,私人間の自然権調整の権限を裁判官に委任したものと解する

⇒ 私人間の自然権侵害から保護することは,「憲法上の人権」を適用することとは異なる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 人権の限界

国家は,市民の人権制限を一切許さないものではなく,すべての個人を平等に尊重するために必要な限度での制限は許される

視座 ① 人権の制約の根拠の解釈論上の根拠

② 許される制限の方法・程度はどうか

(1) 人権制限の根拠―公共の福祉

(ア) 公共の福祉の性格

× 憲法は個人の尊厳を基本原理とするから,公共の福祉を全体主義的な思想を基礎にした「全体の利益」という意味に解することは許されない

Ex. 滅私奉公

○ 「公共の福祉」とは,すべての個人に等しく人権を保障するために必要な措置を意味

∵ ① 個人主義を前提にして「公共の福祉」を考える必要

② すべての個人が幸福追求をするためには,公共の福祉に服する必要(憲法13条)

(イ) 公共の福祉の内容

a 権利・利益の対立状況

芦部説(通説)は,公共の福祉とは,人権衝突を調整するための原理である

× ① 人権制限が必要となるのは,人権同士が衝突する場合に限られない

Ex. 殺人(人を殺すことは人権の行使ではない)

② 他人の人権を侵害するとまではいえないが,自己の権利行使が制限を受ける場合

Ex. 街の美観保護のための看板規制(住民の利益は個別性が薄く人権とはいえない)

③ 他者加害のおそれがなくても,本人の重大な利益のために制限する必要がある?

Ex. 子どもやハンディ・キャップの人に自分自身で判断しなさいと突き放すことは,「個人として尊重」することにならない

*高橋説は,パターナリスティックな制約も「公共の福祉」に含めて考える異色見解

 

b 公共の福祉の内容としての4つの類型

① 人権と人権の衝突を調整する措置

② 他人の人権を侵害する行為を禁止する措置

③ 他人の利益のために人権を制限する措置

* ③は,安易に多数派の利益を重視することのないようにする必要。③は消極国家では稀で,積極国家の現代において急激に増大した「公共の福祉」という性格をもち,主として経済活動の自由の制限の領域で生じている

④ 本人の利益のために本人の人権を制限する措置

 

 

 

 

 

 

 

(ウ) 公共の福祉をめぐる判例・学説の変遷

a 一元的外在制約説

一元的外在制約説は,公共の福祉とは「外在的制約」をいい,内在的制約はとくに規定していなくても当然に存在するものとする。この見解は,22条と29条の公共の福祉のみに外在的制約としての意義を与え,12条と13条は訓示規定にすぎないとして意義を与えない読み方をする

× 「新しい人権」を憲法解釈上認められなくなるし,仮に13条に法的意義を与えると,精神的自由権も外在的制約に服することになってしまう

b 内在・外在二元的制約説

12条と13条は,内在的制約であるが,22条と29条は,外在的制約をいう

c 一元的内在制約説とその後の展開

一元的内在制約説は,公共の福祉を人権間の矛盾・衝突を調整する原理として統一的にとらえたうえで,衝突する人権の性質の違いにより公共の福祉の具体的内容は変わりうると考える(その結果,「自由国家的公共の福祉」と「社会国家的公共の福祉」に分類される)

× 高橋説は,公共の福祉を「人権間の矛盾・衝突の調整原理」ととらえることを批判し,必ずしも対立利益が人権でない場合であっても,重大な公益であれば足りると解する。そして,公共の福祉とは,「すべての国民を平等に『個人として尊重』するために必要となる調整原理」と理解する。

∵ 対立利益を考える時に,単なる利益も人権といわれるようになり,人権のインフレ化を招くから

高橋説 高橋説にいう「公益」とは,個人を超越した全体の利益を志向するものではなく,すべての個人が具体的に享受しうるような公益なら,人権制約が可能となると考える。

その場合,その公益はどの程度重要な公益であり,それを理由にどこまで人権の制約が可能かを具体的に考える必要がある ⇒ 目的審査と手段審査による判断枠組み

Cf. 目的審査と手段審査

目的審査とは,人権規制の目的が規制される人権の重大さに見合っているかの審査をいう。すなわち,人権規制に釣り合うだけの重要な公益保護が目的となっているのかが人権の性質に応じて設定された基準に従って審査されることになる

手段審査とは,その目的の実現のために採用された方法・手段が目的と適合しているのかどうか,その目的の達成が人権を制約することがより少ない方法で可能ではないか―などが審査の対象となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 人権制限の法形式

(ア) 法律の留保

(イ) 特別権力関係論

a 定義

特別権力関係とは,通常の国民が国家権力に服する関係を「一般権力関係」と位置づけ,それに対比される概念をいい,特定の国民が法律に基づいて,又は同意によって国家の特別の支配に服している関係をいう

Ex. 監獄につながれた囚人,公務員,国公立大学学生

b 効果

① 法治主義が排除され,法律の根拠なしに人権を制約することが許される

② 人権制約の程度についても,広範な制限が許される

③ 人権の救済を裁判所に求めることはできない

c 評価

法治主義の例外を認めるのは,日本国憲法下では認められないという点では争いなし。

視点 人権保障の一般原則を前提として,例えば,在監関係の制度や関係の特殊性からどこまでの人権制限が公共の福祉として許されるかを考える

(ウ) 具体例の検討

a 在監者

(a) 喫煙の自由

判例(最大判昭和45年9月16日民集24巻10号1410頁)は,法律上の根拠のない喫煙の禁止を監獄法施行規則のみを根拠に合憲とするが法律の留保から問題あり

(b) 在監者の閲読の自由の制限

閲読の自由の制限については,監獄法31条2項に根拠があり法律の留保からの問題

はなし

判例(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)は,「その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある」かどうかを基準に利益考量をしている

Cf. 大阪地判平成19年9月28日(朝日新聞購読不許可事件)

通常紙の購読の対象を被収容者につき1紙に限定する取扱いを前提としても,購読することができる通常紙の紙種に対する制限をなくした場合,購読に係る内容審査その他の事務に多大の時間と労力を要することになるものと認められ,所与の人的,物的制約の下において被拘禁者の新聞紙閲読の自由の保障の趣旨を没却することなくその購読に係る事務を処理するとすれば,監獄におけるそれ以外の事務に充てられる時間と労力が著しく限定され,その結果,これらの事務の適切な処理に重大な支障を来し,ひいては監獄内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認めざるを得ない。

他方で,新聞の選択にその者の思想,信条ないし政治的意見が多少とも反映されているとしても,少なくとも一般に重要と考えられる公共の利害に関する事実の報道に係る情報については,購読の対象とされた通常紙を購読することによってこれを即時に摂取することが相当程度可能であると考えられる。また,制限の対象とされた通常紙についても差入れ等の方法によりこれを閲読するみちが制度上認められている。そうすると,被拘禁者の上記閲読の自由に対する制限の程度はさほど重大であるということはできない。

 

(c) 髪型の自由

Cf. 名古屋地判平成18年8月10日(名古屋拘置所強制剃髪事件)

1 個人の髪型を各自が自由に決し得る権利は,個人の美的感覚や生活様式などと結びついており,憲法13条が保障する個人の尊厳に係る権利の内容を成すものとして尊重されるべきものであって,何人も合理的な理由なく一定の髪型を強制されることはない。

しかしながら,懲役刑等は,受刑者に贖罪をさせ更生を図ることを目的として矯正を施すものである。かかる拘禁目的の達成に必要な限り上記の自己決定権が制約を受けることは当然というべきである(刑事施設法37条1項)。個々の受刑者について,どのように処遇が拘禁目的の達成に必要かは,当該拘禁施設の長が最も熟知している。したがって,処遇内容の決定は,施設の長の裁量にゆだねられていると解すべきであり,その処遇が,拘禁目的に照らして明らかに自己決定権に対する過剰な制約であると認められない限り,裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法となることはない。

2 男子受刑者の調髪は,原則として原型刈り又は前五分刈りに調髪されるところ,この措置は,①集団内の規律や衛生を厳格に維持するために有効かつ必要な手段であること,②逃走防止及び画一的処遇の実現―などの根拠がある。かかる制限は拘禁目的に照らし合理的で,男子受刑者に過剰な制限を加えるものではない。

原告は,性同一性障害という特殊事情を有するが,法は,社会通念上一般に是認されている判定方法に基づいて男女の判定を行うことを前提とする。原告は,戸籍上男性となっている上,男性器も摘出手術を受けた睾丸部分を除いて残しており,性別を判断する上での身体上の外観としては男性としての特徴を備えている。したがって,名古屋拘置所長が,原告を基本的に男性受刑者として処遇しても裁量権の逸脱・濫用とはできない。

原告の社会的な女性としての生活歴は,拘禁目的を達成するについて考慮されるべき諸事情を上回るものとはいえず,これをどの程度しんしゃくするかは,名古屋拘置所長の裁量判断にゆだねられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b 公務員(政治活動の自由)

(a) 法律の留保原則に反しないか(禁止される政治的行為の内容を白紙的に人事院規則に委任している)

(b) 制限内容について

猿払事件 審査基準として①禁止目的は正当か,②目的と禁止される行為との間に合理的関連性はあるか,③禁止により得られる利益と失われる利益は均衡しているか―を設定し,一律禁止も合憲としている

× 原審は,手段の過大包摂を問題としているところ,最高裁の基準は政治活動の自由を審査する基準としては緩やかすぎるしその適用の仕方も甘すぎる(この批判は納得)

1 国公法102条1項は,公務員のみに対して向けられている。国政は,全体に対する奉仕として運営される必要がある。行政の分野では,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し政治的偏向を排して運営される必要がある。個々の公務員は,政治的に厳に中立の立場を堅持して職務の遂行にあたる必要がある。行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼の維持は,国民全体の重要な利益となる。したがって,公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為の禁止は,それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するものと考えられる
2 国公法102条1項の政治的行為の禁止が上記の合理的で必要やむをえない限度かは,①禁止の目的②目的と禁止される政治的行為との関連性③政治的行為を禁止することにより得られる利益と失われる利益との均衡―の三点から検討することが必要である。
(1) 目的審査(判決が一番長く論証しているが,これはズルいやり方!!)

政治的行為が放任されると政治的中立性が損なわれ,公務運営に党派的偏向を招くおそれがある。また,公務員の党派的偏向が拡大すれば,行政組織内部に深刻な政治的対立を招き行政の能率的で安定した運営は阻害され,ひいては政策の遂行にも重大な支障をきたすおそれがある。このような弊害に照らすと,目的は正当と評価することができる。

(2) 手段審査(まともな説明がない)

弊害の発生を防止するため,政治的中立性を損なうおそれがある政治的行為を禁止することは,禁止目的との間に合理的な関連性があると認められる。たとえ,その禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,行政の中立的運営を直接,具体的に損う行為のみに限定されていないとしても,目的と手段の合理的な関連性が失われるものではない
(3) 利益考量

禁止規定は,意見表明自体の制約でなく,行動のもたらす弊害の防止を目的とする。意見表明の自由は制約されるが,これは間接的・付随的な制約に過ぎない。また,禁止規定以外の行為による意見を表明は制約されない。禁止により得られる利益は国民全体の共同利益であり,得られる利益は重要で,その禁止は利益の均衡を失するものではない。

 

 

(3) 利益考量の方法

(ア) 比較考量の不回避

利益考量の問題は,質が異なる利益を比較する共通の物差しが存在しないことである

物差しがないと究極には判断者の主観的判断となってしまう

 

(イ) 利益考量の二つの考え方と折衷説

① 定義付け衡量

ⅰ保護されるべき人権とⅱ保護されない人権に定義し区別して,具体的事例がこの定義にあたるかを判断する方法

定義付け比較考量とは,定義をする段階で許される制限とそうでない制限を利益考量して区別してしまい,個別事例の分析は定義にあたるかを判断するだけ

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
高まる しにくい

② 個別的衡量

保護される範囲の定義付けをやめて,個別の事例ごとにそこで問題となっているすべての利益を考量して結論を出す方法

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
弱まる しやすい

③ 類型的アプローチ論

類型的アプローチ論は,類型ごとに大まかな方向付けを与える基準を設定するアプローチのこと。定義付け衡量は,高度の予測可能性が求められるので表現の自由の規制などに試みられるが明確な定義は困難なことが多い。そこで,個別的事情も反映する類型的アプローチが多くとられる。

 

(ウ) 利益衡量の一般的枠組み

a) 目的・手段審査

① 目的審査とは,人権制限の目的が適切かを検討する審査のこと

目的審査では,ⅰ制限される人権の性格や重要性とⅱ制限によって得られる利益(政府利益)の性格・重要性が比較検討される

② 手段審査とは,立法目的とそれを達成するための手段との間の適合性の有無の審査のこと

手段審査では,ⅰ手段と立法目的との間に合理的関連性があるか,ⅱ過大包摂ではないか,が審査される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

c) 『通常審査』の原則

① 裁判所による違憲審査は厳格なものである必要がある

なぜなら,憲法は個人の尊厳を守るために不可欠の権利として人権を規定したのであり,人権保障の任務を裁判所に担当させたのであるから,裁判所独自の観点から厳格な審査をするべきだから

② 『通常審査』とは

ベースラインとしての通常審査とは,憲法が裁判所に期待する役割に対応する独自の観点から,立法事実を具体的に検討して結論を出し理由付けを行うこと

通常審査をベースラインにして,人権の性格や規制の性格などに応じて基準の緩急にメリハリをつける

審査基準のメリハリ付けは,どのように行うべきかを具体的ケースに即して検討し,類型化・体系化を図る必要

* 高橋説は,通常審査を出発点にしつつ,人権の性格や規制の性格等に応じて審査がより厳格となったり,緩やかになったりするとの枠組みを示したうえで,具体的ケースに応じた審査の厳格度の決定に際して二重の基準論を参考にするという方向性を示している

 

 

 

 

 

 

③ メリハリ付けの具体例

精神的自由権の規制 表現内容規制 弱者保護規制
萎縮的効果を受けやすい精神的自由権の規制は通常よりも厳格な審査がなされるべき 政府が事故に不都合な表現を抑圧しようとする危険が大きく通常以上の厳格審査の必要 弱者保護のために強者の経済的自由を制限した場合,多数派の国会の判断を尊重すべき

 

ⅰ メリハリ付けの参考―アメリカの審査基準論と二重の基準論

審査基準論とは,規制される人権の性格や規制の手法などを基礎にどの場合には,その基準を用いるべきかを考えるアプローチのこと

二重の基準論とは,審査基準論の基礎にある考え方であり,精神的自由権の規制の場合と経済的自由権の規制の場合とでは審査基準の厳格度が異なるべき,との考え方をいう

 

ⅱ 二重の基準の理論の中身

α 人権の重要度の違い

β 裁判所の能力と役割の観点

γ 民主政論を基礎にした裁判所の役割の違い

民主政論アプローチとは,裁判所は議会が国民の意思を忠実に反映している限り議会の判断を尊重するべき,との考え方である。逆にいえば,議会が国民の意思を忠実に反映していない場合は,厳格な審査がなされるべき,ということになる。したがって,議会が国民の意思を反映しなくなるおそれのある立法がなされた場合には厳格な審査が行われる

議会が国民の意思を正しく反映するためには,表現の自由を中心とする精神的自由権が保障され,かつ,参政権が保障されていることが必要である。したがって,表現の自由や参政権に対する規制立法は議会が国民の意思を正しく反映しなくなるおそれがあるので,厳格な規制が妥当する

補足 プライバシー権と民主政論との調和

一般的にプライバシー権は民主主義プロセスとは関係の関連は薄いといわれている。これに対して,民主主義プロセスの正常の機能には,人格的自律的個人の損害の存在が必要とされている

まとめ

高橋説は,裁判所独自の観点を重視するものであり,それだけ人権の保障を重視している,といえる。高橋説はベースラインとしての通常審査が基本であるが,人権の性格や規制の態様を考慮して審査基準にメリハリをつけるべき,とされている。といっても,二重の基準論を参考に審査基準に緩急をつけるというアプローチであることを示唆している。

したがって,メリハリ付けに際しても二重の基準の理論をマスターしておく必要がある

 

 

 

 

第5章 人権の適用範囲と限界

1 人権規定の法的性格

(2) 日本における議論(3つの次元)

高橋説 日本国憲法の人絹規定は,どの意味においても法的効力を有する

補足説明 高橋説は,立法裁量の広狭の問題に法的性格の議論を還元しているように解される。というのも,高橋説は,②について立法による具体化がなくても,権利性が認められることがあることを認めているし,③のプログラム規定説も単に,立法裁量があまりに広い場合として,②の問題と考えればよいとする趣旨と思われる

① 人権規定は,宣言的意味のものであり,法的効力は持たない

× かつてのドイツ流の解釈で日本国憲法の解釈になじまない

② 人権規定は抽象的性格が強く具体的意味内容を欠き法的効力はない

× 規定の抽象性は,必ずしも法的性格の欠如をもたらさない。日本国憲法には,あまりに抽象度が高く政府のあらゆる行為を許容する(したがって,人権規定として無意味)とみることができる人権規定は存在しない。抽象度が高いということは,立法裁量が広いことを意味しているが,立法裁量には限界がありその限度で法的意味がある

③ 裁判所は,その人権規定を判決の基礎に援用することができるか

裁判所には,違憲審査権があるから,特定の人権規定について裁判所の判断の基礎とすることができないということはないのが原則である。ただし,プログラム規定の場合は例外的に判決の基礎とできない。

× 実定憲法に規定された以上,何らかの法的効力があるからプログラム規定はない

2 私人間における人権の効力

(1) 問題の意味

(ア) 当初の理解

憲法の名宛人は,第一義的には公権力

∵ ① 対国家防御権であることの理由

社会契約説の論理からいくと,憲法の制定とは,社会契約を結んで公権力を創設・組織し,必要な権限を授けかつ制限する行為

② 私人間で憲法の規定が適用されない訳

憲法が制定されると,私法関係を規律するのは法律

(イ) 20世紀的国家観による変化

巨大資本が個人に対して社会的権力を振るうようになった。たしかに,弱者保護のための法律を制定すれば利益調整は可能であるが,社会が必要とする人権保護立法に議会が取り組むことはどうしても遅れがちとなる。そこで,裁判所が私人間の人権侵害について,法律の規定がなくても憲法を適用して救済することはできないかが問題となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 学説・判例(直接適用説・間接適用説の対立の時代)

(ア) 直接適用説

直接適用説とは,人権規定を私人間にも直接適用できる規定であるという立場をいう

∵ そもそも自然権は,社会のあらゆる関係において尊重されるべき権利と考えられていたが,20世紀の法実証主義の思想によりその適用範囲が国家と個人の関係に限定された。ところが,20世紀後期に法実証主義の問題点が明らかになったので原点に戻るべき

* 直接適用説は,私人間関係の種類に関しては,「事実上の権力(私的権力)が一方当事者である場合に限定するのが普通

× 人権にとっての最大の脅威は現代でも国家であり,立憲主義の基本思想を見失わせる

(イ) 間接適用説

間接適用説とは,私人間で人権の保障を図るのは法律の役割であるという論理を維持しつつ,問題の私人間関係に適用しうる適当な法律条文を見つけて,その条文の中に可能な限り人権保障の趣旨を読み込むことにより間接的に人権規定を私人間に及ぼしていく見解

∵ 人権規定が直接適用されるのは,国家権力に対してであるという立憲主義の論理を維持しつつ,私人間における人権侵害の救済をはかろうとする

* 間接適用説が用いる一般条項は,民法90条や民法1条3項が挙げられるが,公序良俗違反や権利濫用と評価されるのは,強者と弱者との間で,強者が弱者の人権を制約する場合

 

(ウ) ステート・アクションの理論

ステート・アクションの理論とは,私人が国と特別の関係にあるような場合,私人の行為を国の行為とみなして,人権規定を直接適用するべきとする理論をいう

 

Ex. 殉職自衛官合祀事件(最大判昭和63年6月1日)

私人である隊友会が殉職自衛官の護国神社への合祀を申請した形となっているが,実際には,自衛隊職員が行ったといってよい状況にあり,隊友会の申請行為は国の行為として政教分離原則に反すると解すべき

 

多数意見

 地連職員(国家)の具体的行為は,各地の護国神社における殉職自衛隊員の合祀状況等を照会して,その回答を県隊友会(私人)に閲覧させ,会の依頼により募金趣意書を起案・配布し,募金を管理し,殉職者の除籍謄本及び殉職証明書を取り寄せたにとどまる。すなわち,地連ないしその職員が直接県護国神社に対し合祀を働き掛けた事実はない。
合祀は,県隊友会がその実現に向けて護国神社と折衝を重ねた結果実現したものにすぎない。本件合祀申請は,実質的にも県隊友会単独の行為であった。これを地連職員と県隊友会(私人)の共同の行為とし,地連職員も本件合祀申請をしたものと評価できない。

 

 

 

裁判官伊藤正己の反対意見

侵害行為の態様を考える場合に,具体的な合祀申請行為を一連の行為と切り離してとらえるのは適当ではなく,全体の経過のうちに総合的にとらえる必要がある。
① 陸上自衛隊のW師団長が開催した中国四国外郭団体懇談会でW師団長が合祀の推進を要望した,② 自衛隊の幹部職員が合祀の祭典の実施に公然と参画し,あるいは合祀実現について積極的な言動をしてきた,③ 地連のA総務課長は,九州各県の地連総務課長にあて,合祀状況を照会する文書を発し回答を得て,これを会に閲覧させた。地連職員の行為は,合祀申請に至る間において,地連職員が深くかかわっていたことを推知しうる。また,社団法人隊友会は,自衛隊諸業務に対する各種協力をその事業の一つとするものであり,県隊友会と地連との関係は極めて密接である。これは,地連が物心ともに協力支援したといえる。本件合祀申請は,県隊友会と地連職員とが相謀り共同して行ったもの

 

(オ) 判例

三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日)は,間接適用説(通説)

昭和女子大事件判決(最判昭和49年7月19日)も踏襲

(カ) 無適用説の再評価

視点 ① 無適用説で救済されない人権はあるか

② 私人間の人権救済の役割は,議会か裁判所の役割か

高橋説 高橋説は,無適用説の論理が立憲主義の適合的であるとしたうえで,法律上の人権規定が存在しない場合については,私人間の人権救済はできないことになると解しているが,現実には法律は存在するのでこのような不都合はないとする。そのうえで,民法90条や709条は,私人間の自然権調整の権限を裁判官に委任したものと解する

⇒ 私人間の自然権侵害から保護することは,「憲法上の人権」を適用することとは異なる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 人権の限界

国家は,市民の人権制限を一切許さないものではなく,すべての個人を平等に尊重するために必要な限度での制限は許される

視座 ① 人権の制約の根拠の解釈論上の根拠

② 許される制限の方法・程度はどうか

(1) 人権制限の根拠―公共の福祉

(ア) 公共の福祉の性格

× 憲法は個人の尊厳を基本原理とするから,公共の福祉を全体主義的な思想を基礎にした「全体の利益」という意味に解することは許されない

Ex. 滅私奉公

○ 「公共の福祉」とは,すべての個人に等しく人権を保障するために必要な措置を意味

∵ ① 個人主義を前提にして「公共の福祉」を考える必要

② すべての個人が幸福追求をするためには,公共の福祉に服する必要(憲法13条)

(イ) 公共の福祉の内容

a 権利・利益の対立状況

芦部説(通説)は,公共の福祉とは,人権衝突を調整するための原理である

× ① 人権制限が必要となるのは,人権同士が衝突する場合に限られない

Ex. 殺人(人を殺すことは人権の行使ではない)

② 他人の人権を侵害するとまではいえないが,自己の権利行使が制限を受ける場合

Ex. 街の美観保護のための看板規制(住民の利益は個別性が薄く人権とはいえない)

③ 他者加害のおそれがなくても,本人の重大な利益のために制限する必要がある?

Ex. 子どもやハンディ・キャップの人に自分自身で判断しなさいと突き放すことは,「個人として尊重」することにならない

*高橋説は,パターナリスティックな制約も「公共の福祉」に含めて考える異色見解

 

b 公共の福祉の内容としての4つの類型

① 人権と人権の衝突を調整する措置

② 他人の人権を侵害する行為を禁止する措置

③ 他人の利益のために人権を制限する措置

* ③は,安易に多数派の利益を重視することのないようにする必要。③は消極国家では稀で,積極国家の現代において急激に増大した「公共の福祉」という性格をもち,主として経済活動の自由の制限の領域で生じている

④ 本人の利益のために本人の人権を制限する措置

 

 

 

 

 

 

 

(ウ) 公共の福祉をめぐる判例・学説の変遷

a 一元的外在制約説

一元的外在制約説は,公共の福祉とは「外在的制約」をいい,内在的制約はとくに規定していなくても当然に存在するものとする。この見解は,22条と29条の公共の福祉のみに外在的制約としての意義を与え,12条と13条は訓示規定にすぎないとして意義を与えない読み方をする

× 「新しい人権」を憲法解釈上認められなくなるし,仮に13条に法的意義を与えると,精神的自由権も外在的制約に服することになってしまう

b 内在・外在二元的制約説

12条と13条は,内在的制約であるが,22条と29条は,外在的制約をいう

c 一元的内在制約説とその後の展開

一元的内在制約説は,公共の福祉を人権間の矛盾・衝突を調整する原理として統一的にとらえたうえで,衝突する人権の性質の違いにより公共の福祉の具体的内容は変わりうると考える(その結果,「自由国家的公共の福祉」と「社会国家的公共の福祉」に分類される)

× 高橋説は,公共の福祉を「人権間の矛盾・衝突の調整原理」ととらえることを批判し,必ずしも対立利益が人権でない場合であっても,重大な公益であれば足りると解する。そして,公共の福祉とは,「すべての国民を平等に『個人として尊重』するために必要となる調整原理」と理解する。

∵ 対立利益を考える時に,単なる利益も人権といわれるようになり,人権のインフレ化を招くから

高橋説 高橋説にいう「公益」とは,個人を超越した全体の利益を志向するものではなく,すべての個人が具体的に享受しうるような公益なら,人権制約が可能となると考える。

その場合,その公益はどの程度重要な公益であり,それを理由にどこまで人権の制約が可能かを具体的に考える必要がある ⇒ 目的審査と手段審査による判断枠組み

Cf. 目的審査と手段審査

目的審査とは,人権規制の目的が規制される人権の重大さに見合っているかの審査をいう。すなわち,人権規制に釣り合うだけの重要な公益保護が目的となっているのかが人権の性質に応じて設定された基準に従って審査されることになる

手段審査とは,その目的の実現のために採用された方法・手段が目的と適合しているのかどうか,その目的の達成が人権を制約することがより少ない方法で可能ではないか―などが審査の対象となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 人権制限の法形式

(ア) 法律の留保

(イ) 特別権力関係論

a 定義

特別権力関係とは,通常の国民が国家権力に服する関係を「一般権力関係」と位置づけ,それに対比される概念をいい,特定の国民が法律に基づいて,又は同意によって国家の特別の支配に服している関係をいう

Ex. 監獄につながれた囚人,公務員,国公立大学学生

b 効果

① 法治主義が排除され,法律の根拠なしに人権を制約することが許される

② 人権制約の程度についても,広範な制限が許される

③ 人権の救済を裁判所に求めることはできない

c 評価

法治主義の例外を認めるのは,日本国憲法下では認められないという点では争いなし。

視点 人権保障の一般原則を前提として,例えば,在監関係の制度や関係の特殊性からどこまでの人権制限が公共の福祉として許されるかを考える

(ウ) 具体例の検討

a 在監者

(a) 喫煙の自由

判例(最大判昭和45年9月16日民集24巻10号1410頁)は,法律上の根拠のない喫煙の禁止を監獄法施行規則のみを根拠に合憲とするが法律の留保から問題あり

(b) 在監者の閲読の自由の制限

閲読の自由の制限については,監獄法31条2項に根拠があり法律の留保からの問題

はなし

判例(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)は,「その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある」かどうかを基準に利益考量をしている

Cf. 大阪地判平成19年9月28日(朝日新聞購読不許可事件)

通常紙の購読の対象を被収容者につき1紙に限定する取扱いを前提としても,購読することができる通常紙の紙種に対する制限をなくした場合,購読に係る内容審査その他の事務に多大の時間と労力を要することになるものと認められ,所与の人的,物的制約の下において被拘禁者の新聞紙閲読の自由の保障の趣旨を没却することなくその購読に係る事務を処理するとすれば,監獄におけるそれ以外の事務に充てられる時間と労力が著しく限定され,その結果,これらの事務の適切な処理に重大な支障を来し,ひいては監獄内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認めざるを得ない。

他方で,新聞の選択にその者の思想,信条ないし政治的意見が多少とも反映されているとしても,少なくとも一般に重要と考えられる公共の利害に関する事実の報道に係る情報については,購読の対象とされた通常紙を購読することによってこれを即時に摂取することが相当程度可能であると考えられる。また,制限の対象とされた通常紙についても差入れ等の方法によりこれを閲読するみちが制度上認められている。そうすると,被拘禁者の上記閲読の自由に対する制限の程度はさほど重大であるということはできない。

 

(c) 髪型の自由

Cf. 名古屋地判平成18年8月10日(名古屋拘置所強制剃髪事件)

1 個人の髪型を各自が自由に決し得る権利は,個人の美的感覚や生活様式などと結びついており,憲法13条が保障する個人の尊厳に係る権利の内容を成すものとして尊重されるべきものであって,何人も合理的な理由なく一定の髪型を強制されることはない。

しかしながら,懲役刑等は,受刑者に贖罪をさせ更生を図ることを目的として矯正を施すものである。かかる拘禁目的の達成に必要な限り上記の自己決定権が制約を受けることは当然というべきである(刑事施設法37条1項)。個々の受刑者について,どのように処遇が拘禁目的の達成に必要かは,当該拘禁施設の長が最も熟知している。したがって,処遇内容の決定は,施設の長の裁量にゆだねられていると解すべきであり,その処遇が,拘禁目的に照らして明らかに自己決定権に対する過剰な制約であると認められない限り,裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法となることはない。

2 男子受刑者の調髪は,原則として原型刈り又は前五分刈りに調髪されるところ,この措置は,①集団内の規律や衛生を厳格に維持するために有効かつ必要な手段であること,②逃走防止及び画一的処遇の実現―などの根拠がある。かかる制限は拘禁目的に照らし合理的で,男子受刑者に過剰な制限を加えるものではない。

原告は,性同一性障害という特殊事情を有するが,法は,社会通念上一般に是認されている判定方法に基づいて男女の判定を行うことを前提とする。原告は,戸籍上男性となっている上,男性器も摘出手術を受けた睾丸部分を除いて残しており,性別を判断する上での身体上の外観としては男性としての特徴を備えている。したがって,名古屋拘置所長が,原告を基本的に男性受刑者として処遇しても裁量権の逸脱・濫用とはできない。

原告の社会的な女性としての生活歴は,拘禁目的を達成するについて考慮されるべき諸事情を上回るものとはいえず,これをどの程度しんしゃくするかは,名古屋拘置所長の裁量判断にゆだねられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b 公務員(政治活動の自由)

(a) 法律の留保原則に反しないか(禁止される政治的行為の内容を白紙的に人事院規則に委任している)

(b) 制限内容について

猿払事件 審査基準として①禁止目的は正当か,②目的と禁止される行為との間に合理的関連性はあるか,③禁止により得られる利益と失われる利益は均衡しているか―を設定し,一律禁止も合憲としている

× 原審は,手段の過大包摂を問題としているところ,最高裁の基準は政治活動の自由を審査する基準としては緩やかすぎるしその適用の仕方も甘すぎる(この批判は納得)

1 国公法102条1項は,公務員のみに対して向けられている。国政は,全体に対する奉仕として運営される必要がある。行政の分野では,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し政治的偏向を排して運営される必要がある。個々の公務員は,政治的に厳に中立の立場を堅持して職務の遂行にあたる必要がある。行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼の維持は,国民全体の重要な利益となる。したがって,公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為の禁止は,それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するものと考えられる
2 国公法102条1項の政治的行為の禁止が上記の合理的で必要やむをえない限度かは,①禁止の目的②目的と禁止される政治的行為との関連性③政治的行為を禁止することにより得られる利益と失われる利益との均衡―の三点から検討することが必要である。
(1) 目的審査(判決が一番長く論証しているが,これはズルいやり方!!)

政治的行為が放任されると政治的中立性が損なわれ,公務運営に党派的偏向を招くおそれがある。また,公務員の党派的偏向が拡大すれば,行政組織内部に深刻な政治的対立を招き行政の能率的で安定した運営は阻害され,ひいては政策の遂行にも重大な支障をきたすおそれがある。このような弊害に照らすと,目的は正当と評価することができる。

(2) 手段審査(まともな説明がない)

弊害の発生を防止するため,政治的中立性を損なうおそれがある政治的行為を禁止することは,禁止目的との間に合理的な関連性があると認められる。たとえ,その禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,行政の中立的運営を直接,具体的に損う行為のみに限定されていないとしても,目的と手段の合理的な関連性が失われるものではない
(3) 利益考量

禁止規定は,意見表明自体の制約でなく,行動のもたらす弊害の防止を目的とする。意見表明の自由は制約されるが,これは間接的・付随的な制約に過ぎない。また,禁止規定以外の行為による意見を表明は制約されない。禁止により得られる利益は国民全体の共同利益であり,得られる利益は重要で,その禁止は利益の均衡を失するものではない。

 

 

(3) 利益考量の方法

(ア) 比較考量の不回避

利益考量の問題は,質が異なる利益を比較する共通の物差しが存在しないことである

物差しがないと究極には判断者の主観的判断となってしまう

 

(イ) 利益考量の二つの考え方と折衷説

① 定義付け衡量

ⅰ保護されるべき人権とⅱ保護されない人権に定義し区別して,具体的事例がこの定義にあたるかを判断する方法

定義付け比較考量とは,定義をする段階で許される制限とそうでない制限を利益考量して区別してしまい,個別事例の分析は定義にあたるかを判断するだけ

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
高まる しにくい

② 個別的衡量

保護される範囲の定義付けをやめて,個別の事例ごとにそこで問題となっているすべての利益を考量して結論を出す方法

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
弱まる しやすい

③ 類型的アプローチ論

類型的アプローチ論は,類型ごとに大まかな方向付けを与える基準を設定するアプローチのこと。定義付け衡量は,高度の予測可能性が求められるので表現の自由の規制などに試みられるが明確な定義は困難なことが多い。そこで,個別的事情も反映する類型的アプローチが多くとられる。

 

(ウ) 利益衡量の一般的枠組み

a) 目的・手段審査

① 目的審査とは,人権制限の目的が適切かを検討する審査のこと

目的審査では,ⅰ制限される人権の性格や重要性とⅱ制限によって得られる利益(政府利益)の性格・重要性が比較検討される

② 手段審査とは,立法目的とそれを達成するための手段との間の適合性の有無の審査のこと

手段審査では,ⅰ手段と立法目的との間に合理的関連性があるか,ⅱ過大包摂ではないか,が審査される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

c) 『通常審査』の原則

① 裁判所による違憲審査は厳格なものである必要がある

なぜなら,憲法は個人の尊厳を守るために不可欠の権利として人権を規定したのであり,人権保障の任務を裁判所に担当させたのであるから,裁判所独自の観点から厳格な審査をするべきだから

② 『通常審査』とは

ベースラインとしての通常審査とは,憲法が裁判所に期待する役割に対応する独自の観点から,立法事実を具体的に検討して結論を出し理由付けを行うこと

通常審査をベースラインにして,人権の性格や規制の性格などに応じて基準の緩急にメリハリをつける

審査基準のメリハリ付けは,どのように行うべきかを具体的ケースに即して検討し,類型化・体系化を図る必要

* 高橋説は,通常審査を出発点にしつつ,人権の性格や規制の性格等に応じて審査がより厳格となったり,緩やかになったりするとの枠組みを示したうえで,具体的ケースに応じた審査の厳格度の決定に際して二重の基準論を参考にするという方向性を示している

 

 

 

 

 

 

③ メリハリ付けの具体例

精神的自由権の規制 表現内容規制 弱者保護規制
萎縮的効果を受けやすい精神的自由権の規制は通常よりも厳格な審査がなされるべき 政府が事故に不都合な表現を抑圧しようとする危険が大きく通常以上の厳格審査の必要 弱者保護のために強者の経済的自由を制限した場合,多数派の国会の判断を尊重すべき

 

ⅰ メリハリ付けの参考―アメリカの審査基準論と二重の基準論

審査基準論とは,規制される人権の性格や規制の手法などを基礎にどの場合には,その基準を用いるべきかを考えるアプローチのこと

二重の基準論とは,審査基準論の基礎にある考え方であり,精神的自由権の規制の場合と経済的自由権の規制の場合とでは審査基準の厳格度が異なるべき,との考え方をいう

 

ⅱ 二重の基準の理論の中身

α 人権の重要度の違い

β 裁判所の能力と役割の観点

γ 民主政論を基礎にした裁判所の役割の違い

民主政論アプローチとは,裁判所は議会が国民の意思を忠実に反映している限り議会の判断を尊重するべき,との考え方である。逆にいえば,議会が国民の意思を忠実に反映していない場合は,厳格な審査がなされるべき,ということになる。したがって,議会が国民の意思を反映しなくなるおそれのある立法がなされた場合には厳格な審査が行われる

議会が国民の意思を正しく反映するためには,表現の自由を中心とする精神的自由権が保障され,かつ,参政権が保障されていることが必要である。したがって,表現の自由や参政権に対する規制立法は議会が国民の意思を正しく反映しなくなるおそれがあるので,厳格な規制が妥当する

補足 プライバシー権と民主政論との調和

一般的にプライバシー権は民主主義プロセスとは関係の関連は薄いといわれている。これに対して,民主主義プロセスの正常の機能には,人格的自律的個人の損害の存在が必要とされている

まとめ

高橋説は,裁判所独自の観点を重視するものであり,それだけ人権の保障を重視している,といえる。高橋説はベースラインとしての通常審査が基本であるが,人権の性格や規制の態様を考慮して審査基準にメリハリをつけるべき,とされている。といっても,二重の基準論を参考に審査基準に緩急をつけるというアプローチであることを示唆している。

したがって,メリハリ付けに際しても二重の基準の理論をマスターしておく必要がある

 

 

 

 

第5章 人権の適用範囲と限界

1 人権規定の法的性格

(2) 日本における議論(3つの次元)

高橋説 日本国憲法の人絹規定は,どの意味においても法的効力を有する

補足説明 高橋説は,立法裁量の広狭の問題に法的性格の議論を還元しているように解される。というのも,高橋説は,②について立法による具体化がなくても,権利性が認められることがあることを認めているし,③のプログラム規定説も単に,立法裁量があまりに広い場合として,②の問題と考えればよいとする趣旨と思われる

① 人権規定は,宣言的意味のものであり,法的効力は持たない

× かつてのドイツ流の解釈で日本国憲法の解釈になじまない

② 人権規定は抽象的性格が強く具体的意味内容を欠き法的効力はない

× 規定の抽象性は,必ずしも法的性格の欠如をもたらさない。日本国憲法には,あまりに抽象度が高く政府のあらゆる行為を許容する(したがって,人権規定として無意味)とみることができる人権規定は存在しない。抽象度が高いということは,立法裁量が広いことを意味しているが,立法裁量には限界がありその限度で法的意味がある

③ 裁判所は,その人権規定を判決の基礎に援用することができるか

裁判所には,違憲審査権があるから,特定の人権規定について裁判所の判断の基礎とすることができないということはないのが原則である。ただし,プログラム規定の場合は例外的に判決の基礎とできない。

× 実定憲法に規定された以上,何らかの法的効力があるからプログラム規定はない

2 私人間における人権の効力

(1) 問題の意味

(ア) 当初の理解

憲法の名宛人は,第一義的には公権力

∵ ① 対国家防御権であることの理由

社会契約説の論理からいくと,憲法の制定とは,社会契約を結んで公権力を創設・組織し,必要な権限を授けかつ制限する行為

② 私人間で憲法の規定が適用されない訳

憲法が制定されると,私法関係を規律するのは法律

(イ) 20世紀的国家観による変化

巨大資本が個人に対して社会的権力を振るうようになった。たしかに,弱者保護のための法律を制定すれば利益調整は可能であるが,社会が必要とする人権保護立法に議会が取り組むことはどうしても遅れがちとなる。そこで,裁判所が私人間の人権侵害について,法律の規定がなくても憲法を適用して救済することはできないかが問題となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 学説・判例(直接適用説・間接適用説の対立の時代)

(ア) 直接適用説

直接適用説とは,人権規定を私人間にも直接適用できる規定であるという立場をいう

∵ そもそも自然権は,社会のあらゆる関係において尊重されるべき権利と考えられていたが,20世紀の法実証主義の思想によりその適用範囲が国家と個人の関係に限定された。ところが,20世紀後期に法実証主義の問題点が明らかになったので原点に戻るべき

* 直接適用説は,私人間関係の種類に関しては,「事実上の権力(私的権力)が一方当事者である場合に限定するのが普通

× 人権にとっての最大の脅威は現代でも国家であり,立憲主義の基本思想を見失わせる

(イ) 間接適用説

間接適用説とは,私人間で人権の保障を図るのは法律の役割であるという論理を維持しつつ,問題の私人間関係に適用しうる適当な法律条文を見つけて,その条文の中に可能な限り人権保障の趣旨を読み込むことにより間接的に人権規定を私人間に及ぼしていく見解

∵ 人権規定が直接適用されるのは,国家権力に対してであるという立憲主義の論理を維持しつつ,私人間における人権侵害の救済をはかろうとする

* 間接適用説が用いる一般条項は,民法90条や民法1条3項が挙げられるが,公序良俗違反や権利濫用と評価されるのは,強者と弱者との間で,強者が弱者の人権を制約する場合

 

(ウ) ステート・アクションの理論

ステート・アクションの理論とは,私人が国と特別の関係にあるような場合,私人の行為を国の行為とみなして,人権規定を直接適用するべきとする理論をいう

 

Ex. 殉職自衛官合祀事件(最大判昭和63年6月1日)

私人である隊友会が殉職自衛官の護国神社への合祀を申請した形となっているが,実際には,自衛隊職員が行ったといってよい状況にあり,隊友会の申請行為は国の行為として政教分離原則に反すると解すべき

 

多数意見

 地連職員(国家)の具体的行為は,各地の護国神社における殉職自衛隊員の合祀状況等を照会して,その回答を県隊友会(私人)に閲覧させ,会の依頼により募金趣意書を起案・配布し,募金を管理し,殉職者の除籍謄本及び殉職証明書を取り寄せたにとどまる。すなわち,地連ないしその職員が直接県護国神社に対し合祀を働き掛けた事実はない。
合祀は,県隊友会がその実現に向けて護国神社と折衝を重ねた結果実現したものにすぎない。本件合祀申請は,実質的にも県隊友会単独の行為であった。これを地連職員と県隊友会(私人)の共同の行為とし,地連職員も本件合祀申請をしたものと評価できない。

 

 

 

裁判官伊藤正己の反対意見

侵害行為の態様を考える場合に,具体的な合祀申請行為を一連の行為と切り離してとらえるのは適当ではなく,全体の経過のうちに総合的にとらえる必要がある。
① 陸上自衛隊のW師団長が開催した中国四国外郭団体懇談会でW師団長が合祀の推進を要望した,② 自衛隊の幹部職員が合祀の祭典の実施に公然と参画し,あるいは合祀実現について積極的な言動をしてきた,③ 地連のA総務課長は,九州各県の地連総務課長にあて,合祀状況を照会する文書を発し回答を得て,これを会に閲覧させた。地連職員の行為は,合祀申請に至る間において,地連職員が深くかかわっていたことを推知しうる。また,社団法人隊友会は,自衛隊諸業務に対する各種協力をその事業の一つとするものであり,県隊友会と地連との関係は極めて密接である。これは,地連が物心ともに協力支援したといえる。本件合祀申請は,県隊友会と地連職員とが相謀り共同して行ったもの

 

(オ) 判例

三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日)は,間接適用説(通説)

昭和女子大事件判決(最判昭和49年7月19日)も踏襲

(カ) 無適用説の再評価

視点 ① 無適用説で救済されない人権はあるか

② 私人間の人権救済の役割は,議会か裁判所の役割か

高橋説 高橋説は,無適用説の論理が立憲主義の適合的であるとしたうえで,法律上の人権規定が存在しない場合については,私人間の人権救済はできないことになると解しているが,現実には法律は存在するのでこのような不都合はないとする。そのうえで,民法90条や709条は,私人間の自然権調整の権限を裁判官に委任したものと解する

⇒ 私人間の自然権侵害から保護することは,「憲法上の人権」を適用することとは異なる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 人権の限界

国家は,市民の人権制限を一切許さないものではなく,すべての個人を平等に尊重するために必要な限度での制限は許される

視座 ① 人権の制約の根拠の解釈論上の根拠

② 許される制限の方法・程度はどうか

(1) 人権制限の根拠―公共の福祉

(ア) 公共の福祉の性格

× 憲法は個人の尊厳を基本原理とするから,公共の福祉を全体主義的な思想を基礎にした「全体の利益」という意味に解することは許されない

Ex. 滅私奉公

○ 「公共の福祉」とは,すべての個人に等しく人権を保障するために必要な措置を意味

∵ ① 個人主義を前提にして「公共の福祉」を考える必要

② すべての個人が幸福追求をするためには,公共の福祉に服する必要(憲法13条)

(イ) 公共の福祉の内容

a 権利・利益の対立状況

芦部説(通説)は,公共の福祉とは,人権衝突を調整するための原理である

× ① 人権制限が必要となるのは,人権同士が衝突する場合に限られない

Ex. 殺人(人を殺すことは人権の行使ではない)

② 他人の人権を侵害するとまではいえないが,自己の権利行使が制限を受ける場合

Ex. 街の美観保護のための看板規制(住民の利益は個別性が薄く人権とはいえない)

③ 他者加害のおそれがなくても,本人の重大な利益のために制限する必要がある?

Ex. 子どもやハンディ・キャップの人に自分自身で判断しなさいと突き放すことは,「個人として尊重」することにならない

*高橋説は,パターナリスティックな制約も「公共の福祉」に含めて考える異色見解

 

b 公共の福祉の内容としての4つの類型

① 人権と人権の衝突を調整する措置

② 他人の人権を侵害する行為を禁止する措置

③ 他人の利益のために人権を制限する措置

* ③は,安易に多数派の利益を重視することのないようにする必要。③は消極国家では稀で,積極国家の現代において急激に増大した「公共の福祉」という性格をもち,主として経済活動の自由の制限の領域で生じている

④ 本人の利益のために本人の人権を制限する措置

 

 

 

 

 

 

 

(ウ) 公共の福祉をめぐる判例・学説の変遷

a 一元的外在制約説

一元的外在制約説は,公共の福祉とは「外在的制約」をいい,内在的制約はとくに規定していなくても当然に存在するものとする。この見解は,22条と29条の公共の福祉のみに外在的制約としての意義を与え,12条と13条は訓示規定にすぎないとして意義を与えない読み方をする

× 「新しい人権」を憲法解釈上認められなくなるし,仮に13条に法的意義を与えると,精神的自由権も外在的制約に服することになってしまう

b 内在・外在二元的制約説

12条と13条は,内在的制約であるが,22条と29条は,外在的制約をいう

c 一元的内在制約説とその後の展開

一元的内在制約説は,公共の福祉を人権間の矛盾・衝突を調整する原理として統一的にとらえたうえで,衝突する人権の性質の違いにより公共の福祉の具体的内容は変わりうると考える(その結果,「自由国家的公共の福祉」と「社会国家的公共の福祉」に分類される)

× 高橋説は,公共の福祉を「人権間の矛盾・衝突の調整原理」ととらえることを批判し,必ずしも対立利益が人権でない場合であっても,重大な公益であれば足りると解する。そして,公共の福祉とは,「すべての国民を平等に『個人として尊重』するために必要となる調整原理」と理解する。

∵ 対立利益を考える時に,単なる利益も人権といわれるようになり,人権のインフレ化を招くから

高橋説 高橋説にいう「公益」とは,個人を超越した全体の利益を志向するものではなく,すべての個人が具体的に享受しうるような公益なら,人権制約が可能となると考える。

その場合,その公益はどの程度重要な公益であり,それを理由にどこまで人権の制約が可能かを具体的に考える必要がある ⇒ 目的審査と手段審査による判断枠組み

Cf. 目的審査と手段審査

目的審査とは,人権規制の目的が規制される人権の重大さに見合っているかの審査をいう。すなわち,人権規制に釣り合うだけの重要な公益保護が目的となっているのかが人権の性質に応じて設定された基準に従って審査されることになる

手段審査とは,その目的の実現のために採用された方法・手段が目的と適合しているのかどうか,その目的の達成が人権を制約することがより少ない方法で可能ではないか―などが審査の対象となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 人権制限の法形式

(ア) 法律の留保

(イ) 特別権力関係論

a 定義

特別権力関係とは,通常の国民が国家権力に服する関係を「一般権力関係」と位置づけ,それに対比される概念をいい,特定の国民が法律に基づいて,又は同意によって国家の特別の支配に服している関係をいう

Ex. 監獄につながれた囚人,公務員,国公立大学学生

b 効果

① 法治主義が排除され,法律の根拠なしに人権を制約することが許される

② 人権制約の程度についても,広範な制限が許される

③ 人権の救済を裁判所に求めることはできない

c 評価

法治主義の例外を認めるのは,日本国憲法下では認められないという点では争いなし。

視点 人権保障の一般原則を前提として,例えば,在監関係の制度や関係の特殊性からどこまでの人権制限が公共の福祉として許されるかを考える

(ウ) 具体例の検討

a 在監者

(a) 喫煙の自由

判例(最大判昭和45年9月16日民集24巻10号1410頁)は,法律上の根拠のない喫煙の禁止を監獄法施行規則のみを根拠に合憲とするが法律の留保から問題あり

(b) 在監者の閲読の自由の制限

閲読の自由の制限については,監獄法31条2項に根拠があり法律の留保からの問題

はなし

判例(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)は,「その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある」かどうかを基準に利益考量をしている

Cf. 大阪地判平成19年9月28日(朝日新聞購読不許可事件)

通常紙の購読の対象を被収容者につき1紙に限定する取扱いを前提としても,購読することができる通常紙の紙種に対する制限をなくした場合,購読に係る内容審査その他の事務に多大の時間と労力を要することになるものと認められ,所与の人的,物的制約の下において被拘禁者の新聞紙閲読の自由の保障の趣旨を没却することなくその購読に係る事務を処理するとすれば,監獄におけるそれ以外の事務に充てられる時間と労力が著しく限定され,その結果,これらの事務の適切な処理に重大な支障を来し,ひいては監獄内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認めざるを得ない。

他方で,新聞の選択にその者の思想,信条ないし政治的意見が多少とも反映されているとしても,少なくとも一般に重要と考えられる公共の利害に関する事実の報道に係る情報については,購読の対象とされた通常紙を購読することによってこれを即時に摂取することが相当程度可能であると考えられる。また,制限の対象とされた通常紙についても差入れ等の方法によりこれを閲読するみちが制度上認められている。そうすると,被拘禁者の上記閲読の自由に対する制限の程度はさほど重大であるということはできない。

 

(c) 髪型の自由

Cf. 名古屋地判平成18年8月10日(名古屋拘置所強制剃髪事件)

1 個人の髪型を各自が自由に決し得る権利は,個人の美的感覚や生活様式などと結びついており,憲法13条が保障する個人の尊厳に係る権利の内容を成すものとして尊重されるべきものであって,何人も合理的な理由なく一定の髪型を強制されることはない。

しかしながら,懲役刑等は,受刑者に贖罪をさせ更生を図ることを目的として矯正を施すものである。かかる拘禁目的の達成に必要な限り上記の自己決定権が制約を受けることは当然というべきである(刑事施設法37条1項)。個々の受刑者について,どのように処遇が拘禁目的の達成に必要かは,当該拘禁施設の長が最も熟知している。したがって,処遇内容の決定は,施設の長の裁量にゆだねられていると解すべきであり,その処遇が,拘禁目的に照らして明らかに自己決定権に対する過剰な制約であると認められない限り,裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法となることはない。

2 男子受刑者の調髪は,原則として原型刈り又は前五分刈りに調髪されるところ,この措置は,①集団内の規律や衛生を厳格に維持するために有効かつ必要な手段であること,②逃走防止及び画一的処遇の実現―などの根拠がある。かかる制限は拘禁目的に照らし合理的で,男子受刑者に過剰な制限を加えるものではない。

原告は,性同一性障害という特殊事情を有するが,法は,社会通念上一般に是認されている判定方法に基づいて男女の判定を行うことを前提とする。原告は,戸籍上男性となっている上,男性器も摘出手術を受けた睾丸部分を除いて残しており,性別を判断する上での身体上の外観としては男性としての特徴を備えている。したがって,名古屋拘置所長が,原告を基本的に男性受刑者として処遇しても裁量権の逸脱・濫用とはできない。

原告の社会的な女性としての生活歴は,拘禁目的を達成するについて考慮されるべき諸事情を上回るものとはいえず,これをどの程度しんしゃくするかは,名古屋拘置所長の裁量判断にゆだねられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b 公務員(政治活動の自由)

(a) 法律の留保原則に反しないか(禁止される政治的行為の内容を白紙的に人事院規則に委任している)

(b) 制限内容について

猿払事件 審査基準として①禁止目的は正当か,②目的と禁止される行為との間に合理的関連性はあるか,③禁止により得られる利益と失われる利益は均衡しているか―を設定し,一律禁止も合憲としている

× 原審は,手段の過大包摂を問題としているところ,最高裁の基準は政治活動の自由を審査する基準としては緩やかすぎるしその適用の仕方も甘すぎる(この批判は納得)

1 国公法102条1項は,公務員のみに対して向けられている。国政は,全体に対する奉仕として運営される必要がある。行政の分野では,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し政治的偏向を排して運営される必要がある。個々の公務員は,政治的に厳に中立の立場を堅持して職務の遂行にあたる必要がある。行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼の維持は,国民全体の重要な利益となる。したがって,公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為の禁止は,それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するものと考えられる
2 国公法102条1項の政治的行為の禁止が上記の合理的で必要やむをえない限度かは,①禁止の目的②目的と禁止される政治的行為との関連性③政治的行為を禁止することにより得られる利益と失われる利益との均衡―の三点から検討することが必要である。
(1) 目的審査(判決が一番長く論証しているが,これはズルいやり方!!)

政治的行為が放任されると政治的中立性が損なわれ,公務運営に党派的偏向を招くおそれがある。また,公務員の党派的偏向が拡大すれば,行政組織内部に深刻な政治的対立を招き行政の能率的で安定した運営は阻害され,ひいては政策の遂行にも重大な支障をきたすおそれがある。このような弊害に照らすと,目的は正当と評価することができる。

(2) 手段審査(まともな説明がない)

弊害の発生を防止するため,政治的中立性を損なうおそれがある政治的行為を禁止することは,禁止目的との間に合理的な関連性があると認められる。たとえ,その禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,行政の中立的運営を直接,具体的に損う行為のみに限定されていないとしても,目的と手段の合理的な関連性が失われるものではない
(3) 利益考量

禁止規定は,意見表明自体の制約でなく,行動のもたらす弊害の防止を目的とする。意見表明の自由は制約されるが,これは間接的・付随的な制約に過ぎない。また,禁止規定以外の行為による意見を表明は制約されない。禁止により得られる利益は国民全体の共同利益であり,得られる利益は重要で,その禁止は利益の均衡を失するものではない。

 

 

(3) 利益考量の方法

(ア) 比較考量の不回避

利益考量の問題は,質が異なる利益を比較する共通の物差しが存在しないことである

物差しがないと究極には判断者の主観的判断となってしまう

 

(イ) 利益考量の二つの考え方と折衷説

① 定義付け衡量

ⅰ保護されるべき人権とⅱ保護されない人権に定義し区別して,具体的事例がこの定義にあたるかを判断する方法

定義付け比較考量とは,定義をする段階で許される制限とそうでない制限を利益考量して区別してしまい,個別事例の分析は定義にあたるかを判断するだけ

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
高まる しにくい

② 個別的衡量

保護される範囲の定義付けをやめて,個別の事例ごとにそこで問題となっているすべての利益を考量して結論を出す方法

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
弱まる しやすい

③ 類型的アプローチ論

類型的アプローチ論は,類型ごとに大まかな方向付けを与える基準を設定するアプローチのこと。定義付け衡量は,高度の予測可能性が求められるので表現の自由の規制などに試みられるが明確な定義は困難なことが多い。そこで,個別的事情も反映する類型的アプローチが多くとられる。

 

(ウ) 利益衡量の一般的枠組み

a) 目的・手段審査

① 目的審査とは,人権制限の目的が適切かを検討する審査のこと

目的審査では,ⅰ制限される人権の性格や重要性とⅱ制限によって得られる利益(政府利益)の性格・重要性が比較検討される

② 手段審査とは,立法目的とそれを達成するための手段との間の適合性の有無の審査のこと

手段審査では,ⅰ手段と立法目的との間に合理的関連性があるか,ⅱ過大包摂ではないか,が審査される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

c) 『通常審査』の原則

① 裁判所による違憲審査は厳格なものである必要がある

なぜなら,憲法は個人の尊厳を守るために不可欠の権利として人権を規定したのであり,人権保障の任務を裁判所に担当させたのであるから,裁判所独自の観点から厳格な審査をするべきだから

② 『通常審査』とは

ベースラインとしての通常審査とは,憲法が裁判所に期待する役割に対応する独自の観点から,立法事実を具体的に検討して結論を出し理由付けを行うこと

通常審査をベースラインにして,人権の性格や規制の性格などに応じて基準の緩急にメリハリをつける

審査基準のメリハリ付けは,どのように行うべきかを具体的ケースに即して検討し,類型化・体系化を図る必要

* 高橋説は,通常審査を出発点にしつつ,人権の性格や規制の性格等に応じて審査がより厳格となったり,緩やかになったりするとの枠組みを示したうえで,具体的ケースに応じた審査の厳格度の決定に際して二重の基準論を参考にするという方向性を示している

 

 

 

 

 

 

③ メリハリ付けの具体例

精神的自由権の規制 表現内容規制 弱者保護規制
萎縮的効果を受けやすい精神的自由権の規制は通常よりも厳格な審査がなされるべき 政府が事故に不都合な表現を抑圧しようとする危険が大きく通常以上の厳格審査の必要 弱者保護のために強者の経済的自由を制限した場合,多数派の国会の判断を尊重すべき

 

ⅰ メリハリ付けの参考―アメリカの審査基準論と二重の基準論

審査基準論とは,規制される人権の性格や規制の手法などを基礎にどの場合には,その基準を用いるべきかを考えるアプローチのこと

二重の基準論とは,審査基準論の基礎にある考え方であり,精神的自由権の規制の場合と経済的自由権の規制の場合とでは審査基準の厳格度が異なるべき,との考え方をいう

 

ⅱ 二重の基準の理論の中身

α 人権の重要度の違い

β 裁判所の能力と役割の観点

γ 民主政論を基礎にした裁判所の役割の違い

民主政論アプローチとは,裁判所は議会が国民の意思を忠実に反映している限り議会の判断を尊重するべき,との考え方である。逆にいえば,議会が国民の意思を忠実に反映していない場合は,厳格な審査がなされるべき,ということになる。したがって,議会が国民の意思を反映しなくなるおそれのある立法がなされた場合には厳格な審査が行われる

議会が国民の意思を正しく反映するためには,表現の自由を中心とする精神的自由権が保障され,かつ,参政権が保障されていることが必要である。したがって,表現の自由や参政権に対する規制立法は議会が国民の意思を正しく反映しなくなるおそれがあるので,厳格な規制が妥当する

補足 プライバシー権と民主政論との調和

一般的にプライバシー権は民主主義プロセスとは関係の関連は薄いといわれている。これに対して,民主主義プロセスの正常の機能には,人格的自律的個人の損害の存在が必要とされている

まとめ

高橋説は,裁判所独自の観点を重視するものであり,それだけ人権の保障を重視している,といえる。高橋説はベースラインとしての通常審査が基本であるが,人権の性格や規制の態様を考慮して審査基準にメリハリをつけるべき,とされている。といっても,二重の基準論を参考に審査基準に緩急をつけるというアプローチであることを示唆している。

したがって,メリハリ付けに際しても二重の基準の理論をマスターしておく必要がある

 

 

 

 

第5章 人権の適用範囲と限界

1 人権規定の法的性格

(2) 日本における議論(3つの次元)

高橋説 日本国憲法の人絹規定は,どの意味においても法的効力を有する

補足説明 高橋説は,立法裁量の広狭の問題に法的性格の議論を還元しているように解される。というのも,高橋説は,②について立法による具体化がなくても,権利性が認められることがあることを認めているし,③のプログラム規定説も単に,立法裁量があまりに広い場合として,②の問題と考えればよいとする趣旨と思われる

① 人権規定は,宣言的意味のものであり,法的効力は持たない

× かつてのドイツ流の解釈で日本国憲法の解釈になじまない

② 人権規定は抽象的性格が強く具体的意味内容を欠き法的効力はない

× 規定の抽象性は,必ずしも法的性格の欠如をもたらさない。日本国憲法には,あまりに抽象度が高く政府のあらゆる行為を許容する(したがって,人権規定として無意味)とみることができる人権規定は存在しない。抽象度が高いということは,立法裁量が広いことを意味しているが,立法裁量には限界がありその限度で法的意味がある

③ 裁判所は,その人権規定を判決の基礎に援用することができるか

裁判所には,違憲審査権があるから,特定の人権規定について裁判所の判断の基礎とすることができないということはないのが原則である。ただし,プログラム規定の場合は例外的に判決の基礎とできない。

× 実定憲法に規定された以上,何らかの法的効力があるからプログラム規定はない

2 私人間における人権の効力

(1) 問題の意味

(ア) 当初の理解

憲法の名宛人は,第一義的には公権力

∵ ① 対国家防御権であることの理由

社会契約説の論理からいくと,憲法の制定とは,社会契約を結んで公権力を創設・組織し,必要な権限を授けかつ制限する行為

② 私人間で憲法の規定が適用されない訳

憲法が制定されると,私法関係を規律するのは法律

(イ) 20世紀的国家観による変化

巨大資本が個人に対して社会的権力を振るうようになった。たしかに,弱者保護のための法律を制定すれば利益調整は可能であるが,社会が必要とする人権保護立法に議会が取り組むことはどうしても遅れがちとなる。そこで,裁判所が私人間の人権侵害について,法律の規定がなくても憲法を適用して救済することはできないかが問題となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 学説・判例(直接適用説・間接適用説の対立の時代)

(ア) 直接適用説

直接適用説とは,人権規定を私人間にも直接適用できる規定であるという立場をいう

∵ そもそも自然権は,社会のあらゆる関係において尊重されるべき権利と考えられていたが,20世紀の法実証主義の思想によりその適用範囲が国家と個人の関係に限定された。ところが,20世紀後期に法実証主義の問題点が明らかになったので原点に戻るべき

* 直接適用説は,私人間関係の種類に関しては,「事実上の権力(私的権力)が一方当事者である場合に限定するのが普通

× 人権にとっての最大の脅威は現代でも国家であり,立憲主義の基本思想を見失わせる

(イ) 間接適用説

間接適用説とは,私人間で人権の保障を図るのは法律の役割であるという論理を維持しつつ,問題の私人間関係に適用しうる適当な法律条文を見つけて,その条文の中に可能な限り人権保障の趣旨を読み込むことにより間接的に人権規定を私人間に及ぼしていく見解

∵ 人権規定が直接適用されるのは,国家権力に対してであるという立憲主義の論理を維持しつつ,私人間における人権侵害の救済をはかろうとする

* 間接適用説が用いる一般条項は,民法90条や民法1条3項が挙げられるが,公序良俗違反や権利濫用と評価されるのは,強者と弱者との間で,強者が弱者の人権を制約する場合

 

(ウ) ステート・アクションの理論

ステート・アクションの理論とは,私人が国と特別の関係にあるような場合,私人の行為を国の行為とみなして,人権規定を直接適用するべきとする理論をいう

 

Ex. 殉職自衛官合祀事件(最大判昭和63年6月1日)

私人である隊友会が殉職自衛官の護国神社への合祀を申請した形となっているが,実際には,自衛隊職員が行ったといってよい状況にあり,隊友会の申請行為は国の行為として政教分離原則に反すると解すべき

 

多数意見

 地連職員(国家)の具体的行為は,各地の護国神社における殉職自衛隊員の合祀状況等を照会して,その回答を県隊友会(私人)に閲覧させ,会の依頼により募金趣意書を起案・配布し,募金を管理し,殉職者の除籍謄本及び殉職証明書を取り寄せたにとどまる。すなわち,地連ないしその職員が直接県護国神社に対し合祀を働き掛けた事実はない。
合祀は,県隊友会がその実現に向けて護国神社と折衝を重ねた結果実現したものにすぎない。本件合祀申請は,実質的にも県隊友会単独の行為であった。これを地連職員と県隊友会(私人)の共同の行為とし,地連職員も本件合祀申請をしたものと評価できない。

 

 

 

裁判官伊藤正己の反対意見

侵害行為の態様を考える場合に,具体的な合祀申請行為を一連の行為と切り離してとらえるのは適当ではなく,全体の経過のうちに総合的にとらえる必要がある。
① 陸上自衛隊のW師団長が開催した中国四国外郭団体懇談会でW師団長が合祀の推進を要望した,② 自衛隊の幹部職員が合祀の祭典の実施に公然と参画し,あるいは合祀実現について積極的な言動をしてきた,③ 地連のA総務課長は,九州各県の地連総務課長にあて,合祀状況を照会する文書を発し回答を得て,これを会に閲覧させた。地連職員の行為は,合祀申請に至る間において,地連職員が深くかかわっていたことを推知しうる。また,社団法人隊友会は,自衛隊諸業務に対する各種協力をその事業の一つとするものであり,県隊友会と地連との関係は極めて密接である。これは,地連が物心ともに協力支援したといえる。本件合祀申請は,県隊友会と地連職員とが相謀り共同して行ったもの

 

(オ) 判例

三菱樹脂事件判決(最大判昭和48年12月12日)は,間接適用説(通説)

昭和女子大事件判決(最判昭和49年7月19日)も踏襲

(カ) 無適用説の再評価

視点 ① 無適用説で救済されない人権はあるか

② 私人間の人権救済の役割は,議会か裁判所の役割か

高橋説 高橋説は,無適用説の論理が立憲主義の適合的であるとしたうえで,法律上の人権規定が存在しない場合については,私人間の人権救済はできないことになると解しているが,現実には法律は存在するのでこのような不都合はないとする。そのうえで,民法90条や709条は,私人間の自然権調整の権限を裁判官に委任したものと解する

⇒ 私人間の自然権侵害から保護することは,「憲法上の人権」を適用することとは異なる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 人権の限界

国家は,市民の人権制限を一切許さないものではなく,すべての個人を平等に尊重するために必要な限度での制限は許される

視座 ① 人権の制約の根拠の解釈論上の根拠

② 許される制限の方法・程度はどうか

(1) 人権制限の根拠―公共の福祉

(ア) 公共の福祉の性格

× 憲法は個人の尊厳を基本原理とするから,公共の福祉を全体主義的な思想を基礎にした「全体の利益」という意味に解することは許されない

Ex. 滅私奉公

○ 「公共の福祉」とは,すべての個人に等しく人権を保障するために必要な措置を意味

∵ ① 個人主義を前提にして「公共の福祉」を考える必要

② すべての個人が幸福追求をするためには,公共の福祉に服する必要(憲法13条)

(イ) 公共の福祉の内容

a 権利・利益の対立状況

芦部説(通説)は,公共の福祉とは,人権衝突を調整するための原理である

× ① 人権制限が必要となるのは,人権同士が衝突する場合に限られない

Ex. 殺人(人を殺すことは人権の行使ではない)

② 他人の人権を侵害するとまではいえないが,自己の権利行使が制限を受ける場合

Ex. 街の美観保護のための看板規制(住民の利益は個別性が薄く人権とはいえない)

③ 他者加害のおそれがなくても,本人の重大な利益のために制限する必要がある?

Ex. 子どもやハンディ・キャップの人に自分自身で判断しなさいと突き放すことは,「個人として尊重」することにならない

*高橋説は,パターナリスティックな制約も「公共の福祉」に含めて考える異色見解

 

b 公共の福祉の内容としての4つの類型

① 人権と人権の衝突を調整する措置

② 他人の人権を侵害する行為を禁止する措置

③ 他人の利益のために人権を制限する措置

* ③は,安易に多数派の利益を重視することのないようにする必要。③は消極国家では稀で,積極国家の現代において急激に増大した「公共の福祉」という性格をもち,主として経済活動の自由の制限の領域で生じている

④ 本人の利益のために本人の人権を制限する措置

 

 

 

 

 

 

 

(ウ) 公共の福祉をめぐる判例・学説の変遷

a 一元的外在制約説

一元的外在制約説は,公共の福祉とは「外在的制約」をいい,内在的制約はとくに規定していなくても当然に存在するものとする。この見解は,22条と29条の公共の福祉のみに外在的制約としての意義を与え,12条と13条は訓示規定にすぎないとして意義を与えない読み方をする

× 「新しい人権」を憲法解釈上認められなくなるし,仮に13条に法的意義を与えると,精神的自由権も外在的制約に服することになってしまう

b 内在・外在二元的制約説

12条と13条は,内在的制約であるが,22条と29条は,外在的制約をいう

c 一元的内在制約説とその後の展開

一元的内在制約説は,公共の福祉を人権間の矛盾・衝突を調整する原理として統一的にとらえたうえで,衝突する人権の性質の違いにより公共の福祉の具体的内容は変わりうると考える(その結果,「自由国家的公共の福祉」と「社会国家的公共の福祉」に分類される)

× 高橋説は,公共の福祉を「人権間の矛盾・衝突の調整原理」ととらえることを批判し,必ずしも対立利益が人権でない場合であっても,重大な公益であれば足りると解する。そして,公共の福祉とは,「すべての国民を平等に『個人として尊重』するために必要となる調整原理」と理解する。

∵ 対立利益を考える時に,単なる利益も人権といわれるようになり,人権のインフレ化を招くから

高橋説 高橋説にいう「公益」とは,個人を超越した全体の利益を志向するものではなく,すべての個人が具体的に享受しうるような公益なら,人権制約が可能となると考える。

その場合,その公益はどの程度重要な公益であり,それを理由にどこまで人権の制約が可能かを具体的に考える必要がある ⇒ 目的審査と手段審査による判断枠組み

Cf. 目的審査と手段審査

目的審査とは,人権規制の目的が規制される人権の重大さに見合っているかの審査をいう。すなわち,人権規制に釣り合うだけの重要な公益保護が目的となっているのかが人権の性質に応じて設定された基準に従って審査されることになる

手段審査とは,その目的の実現のために採用された方法・手段が目的と適合しているのかどうか,その目的の達成が人権を制約することがより少ない方法で可能ではないか―などが審査の対象となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 人権制限の法形式

(ア) 法律の留保

(イ) 特別権力関係論

a 定義

特別権力関係とは,通常の国民が国家権力に服する関係を「一般権力関係」と位置づけ,それに対比される概念をいい,特定の国民が法律に基づいて,又は同意によって国家の特別の支配に服している関係をいう

Ex. 監獄につながれた囚人,公務員,国公立大学学生

b 効果

① 法治主義が排除され,法律の根拠なしに人権を制約することが許される

② 人権制約の程度についても,広範な制限が許される

③ 人権の救済を裁判所に求めることはできない

c 評価

法治主義の例外を認めるのは,日本国憲法下では認められないという点では争いなし。

視点 人権保障の一般原則を前提として,例えば,在監関係の制度や関係の特殊性からどこまでの人権制限が公共の福祉として許されるかを考える

(ウ) 具体例の検討

a 在監者

(a) 喫煙の自由

判例(最大判昭和45年9月16日民集24巻10号1410頁)は,法律上の根拠のない喫煙の禁止を監獄法施行規則のみを根拠に合憲とするが法律の留保から問題あり

(b) 在監者の閲読の自由の制限

閲読の自由の制限については,監獄法31条2項に根拠があり法律の留保からの問題

はなし

判例(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)は,「その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある」かどうかを基準に利益考量をしている

Cf. 大阪地判平成19年9月28日(朝日新聞購読不許可事件)

通常紙の購読の対象を被収容者につき1紙に限定する取扱いを前提としても,購読することができる通常紙の紙種に対する制限をなくした場合,購読に係る内容審査その他の事務に多大の時間と労力を要することになるものと認められ,所与の人的,物的制約の下において被拘禁者の新聞紙閲読の自由の保障の趣旨を没却することなくその購読に係る事務を処理するとすれば,監獄におけるそれ以外の事務に充てられる時間と労力が著しく限定され,その結果,これらの事務の適切な処理に重大な支障を来し,ひいては監獄内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認めざるを得ない。

他方で,新聞の選択にその者の思想,信条ないし政治的意見が多少とも反映されているとしても,少なくとも一般に重要と考えられる公共の利害に関する事実の報道に係る情報については,購読の対象とされた通常紙を購読することによってこれを即時に摂取することが相当程度可能であると考えられる。また,制限の対象とされた通常紙についても差入れ等の方法によりこれを閲読するみちが制度上認められている。そうすると,被拘禁者の上記閲読の自由に対する制限の程度はさほど重大であるということはできない。

 

(c) 髪型の自由

Cf. 名古屋地判平成18年8月10日(名古屋拘置所強制剃髪事件)

1 個人の髪型を各自が自由に決し得る権利は,個人の美的感覚や生活様式などと結びついており,憲法13条が保障する個人の尊厳に係る権利の内容を成すものとして尊重されるべきものであって,何人も合理的な理由なく一定の髪型を強制されることはない。

しかしながら,懲役刑等は,受刑者に贖罪をさせ更生を図ることを目的として矯正を施すものである。かかる拘禁目的の達成に必要な限り上記の自己決定権が制約を受けることは当然というべきである(刑事施設法37条1項)。個々の受刑者について,どのように処遇が拘禁目的の達成に必要かは,当該拘禁施設の長が最も熟知している。したがって,処遇内容の決定は,施設の長の裁量にゆだねられていると解すべきであり,その処遇が,拘禁目的に照らして明らかに自己決定権に対する過剰な制約であると認められない限り,裁量の範囲を逸脱・濫用するものとして違法となることはない。

2 男子受刑者の調髪は,原則として原型刈り又は前五分刈りに調髪されるところ,この措置は,①集団内の規律や衛生を厳格に維持するために有効かつ必要な手段であること,②逃走防止及び画一的処遇の実現―などの根拠がある。かかる制限は拘禁目的に照らし合理的で,男子受刑者に過剰な制限を加えるものではない。

原告は,性同一性障害という特殊事情を有するが,法は,社会通念上一般に是認されている判定方法に基づいて男女の判定を行うことを前提とする。原告は,戸籍上男性となっている上,男性器も摘出手術を受けた睾丸部分を除いて残しており,性別を判断する上での身体上の外観としては男性としての特徴を備えている。したがって,名古屋拘置所長が,原告を基本的に男性受刑者として処遇しても裁量権の逸脱・濫用とはできない。

原告の社会的な女性としての生活歴は,拘禁目的を達成するについて考慮されるべき諸事情を上回るものとはいえず,これをどの程度しんしゃくするかは,名古屋拘置所長の裁量判断にゆだねられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b 公務員(政治活動の自由)

(a) 法律の留保原則に反しないか(禁止される政治的行為の内容を白紙的に人事院規則に委任している)

(b) 制限内容について

猿払事件 審査基準として①禁止目的は正当か,②目的と禁止される行為との間に合理的関連性はあるか,③禁止により得られる利益と失われる利益は均衡しているか―を設定し,一律禁止も合憲としている

× 原審は,手段の過大包摂を問題としているところ,最高裁の基準は政治活動の自由を審査する基準としては緩やかすぎるしその適用の仕方も甘すぎる(この批判は納得)

1 国公法102条1項は,公務員のみに対して向けられている。国政は,全体に対する奉仕として運営される必要がある。行政の分野では,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し政治的偏向を排して運営される必要がある。個々の公務員は,政治的に厳に中立の立場を堅持して職務の遂行にあたる必要がある。行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼の維持は,国民全体の重要な利益となる。したがって,公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為の禁止は,それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するものと考えられる
2 国公法102条1項の政治的行為の禁止が上記の合理的で必要やむをえない限度かは,①禁止の目的②目的と禁止される政治的行為との関連性③政治的行為を禁止することにより得られる利益と失われる利益との均衡―の三点から検討することが必要である。
(1) 目的審査(判決が一番長く論証しているが,これはズルいやり方!!)

政治的行為が放任されると政治的中立性が損なわれ,公務運営に党派的偏向を招くおそれがある。また,公務員の党派的偏向が拡大すれば,行政組織内部に深刻な政治的対立を招き行政の能率的で安定した運営は阻害され,ひいては政策の遂行にも重大な支障をきたすおそれがある。このような弊害に照らすと,目的は正当と評価することができる。

(2) 手段審査(まともな説明がない)

弊害の発生を防止するため,政治的中立性を損なうおそれがある政治的行為を禁止することは,禁止目的との間に合理的な関連性があると認められる。たとえ,その禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,行政の中立的運営を直接,具体的に損う行為のみに限定されていないとしても,目的と手段の合理的な関連性が失われるものではない
(3) 利益考量

禁止規定は,意見表明自体の制約でなく,行動のもたらす弊害の防止を目的とする。意見表明の自由は制約されるが,これは間接的・付随的な制約に過ぎない。また,禁止規定以外の行為による意見を表明は制約されない。禁止により得られる利益は国民全体の共同利益であり,得られる利益は重要で,その禁止は利益の均衡を失するものではない。

 

 

(3) 利益考量の方法

(ア) 比較考量の不回避

利益考量の問題は,質が異なる利益を比較する共通の物差しが存在しないことである

物差しがないと究極には判断者の主観的判断となってしまう

 

(イ) 利益考量の二つの考え方と折衷説

① 定義付け衡量

ⅰ保護されるべき人権とⅱ保護されない人権に定義し区別して,具体的事例がこの定義にあたるかを判断する方法

定義付け比較考量とは,定義をする段階で許される制限とそうでない制限を利益考量して区別してしまい,個別事例の分析は定義にあたるかを判断するだけ

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
高まる しにくい

② 個別的衡量

保護される範囲の定義付けをやめて,個別の事例ごとにそこで問題となっているすべての利益を考量して結論を出す方法

予測可能性 特殊な利益・事情の考慮
弱まる しやすい

③ 類型的アプローチ論

類型的アプローチ論は,類型ごとに大まかな方向付けを与える基準を設定するアプローチのこと。定義付け衡量は,高度の予測可能性が求められるので表現の自由の規制などに試みられるが明確な定義は困難なことが多い。そこで,個別的事情も反映する類型的アプローチが多くとられる。

 

(ウ) 利益衡量の一般的枠組み

a) 目的・手段審査

① 目的審査とは,人権制限の目的が適切かを検討する審査のこと

目的審査では,ⅰ制限される人権の性格や重要性とⅱ制限によって得られる利益(政府利益)の性格・重要性が比較検討される

② 手段審査とは,立法目的とそれを達成するための手段との間の適合性の有無の審査のこと

手段審査では,ⅰ手段と立法目的との間に合理的関連性があるか,ⅱ過大包摂ではないか,が審査される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

c) 『通常審査』の原則

① 裁判所による違憲審査は厳格なものである必要がある

なぜなら,憲法は個人の尊厳を守るために不可欠の権利として人権を規定したのであり,人権保障の任務を裁判所に担当させたのであるから,裁判所独自の観点から厳格な審査をするべきだから

② 『通常審査』とは

ベースラインとしての通常審査とは,憲法が裁判所に期待する役割に対応する独自の観点から,立法事実を具体的に検討して結論を出し理由付けを行うこと

通常審査をベースラインにして,人権の性格や規制の性格などに応じて基準の緩急にメリハリをつける

審査基準のメリハリ付けは,どのように行うべきかを具体的ケースに即して検討し,類型化・体系化を図る必要

* 高橋説は,通常審査を出発点にしつつ,人権の性格や規制の性格等に応じて審査がより厳格となったり,緩やかになったりするとの枠組みを示したうえで,具体的ケースに応じた審査の厳格度の決定に際して二重の基準論を参考にするという方向性を示している

 

 

 

 

 

 

③ メリハリ付けの具体例

精神的自由権の規制 表現内容規制 弱者保護規制
萎縮的効果を受けやすい精神的自由権の規制は通常よりも厳格な審査がなされるべき 政府が事故に不都合な表現を抑圧しようとする危険が大きく通常以上の厳格審査の必要 弱者保護のために強者の経済的自由を制限した場合,多数派の国会の判断を尊重すべき

 

ⅰ メリハリ付けの参考―アメリカの審査基準論と二重の基準論

審査基準論とは,規制される人権の性格や規制の手法などを基礎にどの場合には,その基準を用いるべきかを考えるアプローチのこと

二重の基準論とは,審査基準論の基礎にある考え方であり,精神的自由権の規制の場合と経済的自由権の規制の場合とでは審査基準の厳格度が異なるべき,との考え方をいう

 

ⅱ 二重の基準の理論の中身

α 人権の重要度の違い

β 裁判所の能力と役割の観点

γ 民主政論を基礎にした裁判所の役割の違い

民主政論アプローチとは,裁判所は議会が国民の意思を忠実に反映している限り議会の判断を尊重するべき,との考え方である。逆にいえば,議会が国民の意思を忠実に反映していない場合は,厳格な審査がなされるべき,ということになる。したがって,議会が国民の意思を反映しなくなるおそれのある立法がなされた場合には厳格な審査が行われる

議会が国民の意思を正しく反映するためには,表現の自由を中心とする精神的自由権が保障され,かつ,参政権が保障されていることが必要である。したがって,表現の自由や参政権に対する規制立法は議会が国民の意思を正しく反映しなくなるおそれがあるので,厳格な規制が妥当する

補足 プライバシー権と民主政論との調和

一般的にプライバシー権は民主主義プロセスとは関係の関連は薄いといわれている。これに対して,民主主義プロセスの正常の機能には,人格的自律的個人の損害の存在が必要とされている

まとめ

高橋説は,裁判所独自の観点を重視するものであり,それだけ人権の保障を重視している,といえる。高橋説はベースラインとしての通常審査が基本であるが,人権の性格や規制の態様を考慮して審査基準にメリハリをつけるべき,とされている。といっても,二重の基準論を参考に審査基準に緩急をつけるというアプローチであることを示唆している。

したがって,メリハリ付けに際しても二重の基準の理論をマスターしておく必要がある

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