家族信託
- 家族信託は遺産分割がいらない。
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家族信託といわれる民事信託では、相続における遺産分割方法の指定という問題が生じません。
例えば、鈴世さんとなるみさんは、2人くらしです。鈴世さんは前妻との間に生まれたキキさんと、両者間の長男・緋生くんがいます。
しかし、なるみさんとキキさんは、キキさんからすれば、父親を盗られたと発言することもあり、折り合いは悪いようですが、そんなキキさんも長女として普通であれば相続権があることになります。
そこで鈴世さんは、キキさんがなるみさんの生活費を心配して自分の死後の生活費として金500万円を息子の緋生くんに信託することにしました。
これは、一種の後見に法的効果としては似ていると思います。
緋生さんは、自己の財産として所有している現金と、鈴世さんから信託された500万円を区別するため信託口の口座で管理することになるのは、後見人とよく似ています。
ポイントは、鈴世さんが死亡した場合に、なるみさん、緋生さん、キキさんでの遺産分割協議で、上記500万円は遺産の対象とならないということです。
なぜなら、信託財産は、一定の目的達成のために財産を預けるのであって、相続は関係ないという点が明確になっているからです。
この点、後見の場合は、死亡したら、それらも相続財産になる点が大きく違う、生前贈与的効果があることも注目されます。
なお、家族信託、いわば民事信託は、後見制度の使い勝手の悪さから用いられるようになりました。補助、補佐、後見という3つのカテゴライズがあるのですが、現実には硬直的にすべて「後見」として運用されています。後見人の行動はすべて家庭裁判所の監督下なり、また、ここ10年で申立人ではなく、誰が後見人になるのかよく分からない、というケースが増えてきました。残念ながら後見人制度は後見人自身にも不便な制度で何のための制度か、理念を失い制度だけが残ったという印象なのです。
信託は、受益権の移動だけですので、遺言執行も遺産分割協議も何ら必要なく、そのうえに財産自体の名義は受託者のものとなります。理論的には、第一次受益者から第二次受益者に異動するのですが、これは承継が起きているのではなく、二次受益権という固有の新たな受益権が発生しているものと解するのが妥当なので、相続とは異なるアプローチとなっています。