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入管法

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平成28年11月30日名古屋高裁

以上の認定事実及び前記前提事実によると,控訴人は,平成9年に本邦に入国以来,平成25年に本件刑事事件を起こすまで16年余にわたって特段の問題もなく生活してきたものであり,平成12年頃からは,一時の別居時期を除き,本邦に永住者の在留資格を有するAと内縁生活を継続し,現在に至るまで,生計が苦しい中でもAと力を合わせて3人の子らを懸命に監護養育してきたものと認められ,今後も,日本語しか話せない3人の子らのために本邦において一家5人で生活していくことを強く望んでいるところである。そして,Aの母国であるフィリピンに法律上の障害があって,容易に婚姻届が受理されないものの,両者には強い婚姻の意思があり,婚姻届が受理されるべく手を尽くしていることが認められる。もっとも,二男C及び三男Dは,戸籍上の父親がEとされており,生物学上の父が控訴人であるとの立証もないが,Aも控訴人も3人の子らはいずれも自分たちの間の子であると言っており,実際にいずれも自分たちの子として分け隔てなく慈しみ育ててきたことがうかがわれ,今後もこのような実際上の家族の状況に変わりはないものと認められる。
なお,Aは,前記2(6)に認定のとおり,平成26年3月5日,名古屋入管審判部門入国審査官に対し,控訴人とは別れており,やり直す気もない旨述べたことは認められるが,Aとしては,控訴人が身柄を拘束されてしまい,日本人である義父を頼らざるを得ない状況の中で,義父からの強い指示に逆らうことができず,やむなくそのように述べたものであって,Aの真意ではなく,当法廷で涙を流しながら述べたことがAの真意であり,控訴人の在留が認められれば義父に頼らず夫婦で力を合わせて生活していく意思を有していると認められる。
このような状況下において,控訴人がブラジルへ強制的に帰国させられることになれば,病弱なAが今後も本邦において一人で日本語しか話せない3人の子らを監護養育していかざるを得ず,それはAにとって事実上不可能に近いものと考えられ,一家離散ないしは母子の離別すら招きかねない事態となって,著しく人道に反する結果となる。
また,平成25年10月8日に在留期間を徒過して不法残留となっているが,控訴人は,平成9年の本邦への入国後,何度も在留期間の更新等が認められてきたものであり,上記のとおり在留期間を徒過したのは,本件刑事事件の犯罪を行って警察への出頭を同月●日まで躊躇していた間のことであって,在留期間の徒過それ自体を控訴人が意図的に望んだものとはいえない。
以上の諸事実は,本件裁決に当たり十分に考慮されるべき事柄である。
(2) 他方,本件刑事事件の詳細は,前記前提事実に記載のとおりであり,控訴人は,無免許で無車検・無保険車を運転した上,見通しが悪い交差点に進入する際,一時停止の標識があったにもかかわらず,一時停止をせずにその安全を確認しなかった結果,自車を被害車両に衝突させ,その運転者に加療約2週間を要する傷害を負わせたのみならず,その後も救護義務,報告義務を果たさず,そのまま逃走したというものである。確かに,控訴人の過失は危険かつ重大で,その一連の行為は交通法規ひいては被害者の生命等を軽視する身勝手なものといわざるを得ないところであって,本件刑事事件は,控訴人の在留特別許可の許否において消極要素として考慮されてもやむを得ない。
しかし,他方,控訴人は,無免許運転等の常習性がうかがわれるわけではなく,数日前にAと夫婦喧嘩をし,家を出て廃工場に寝泊まりしていた中で,Aと話し合うための時間に間に合わないと焦ったことから無免許運転等を敢行し,人身事故を惹起してしまったという偶発性もうかがわれる(甲1,乙9)。また,幸いにして被害者の傷害の程度は重いものではなく,被害感情が強いとも認められない上,控訴人はこれら犯行後自ら警察に出頭しているところであって,起訴に際しては在庁略式による罰金刑も検討された形跡があり(乙13),前歴はうかがわれないではないものの(乙9)初犯であり,十分反省していることも考慮されて,上記2(5)に記載のとおり,懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けたものと考えられる。本件裁決に当たっては,このような本件刑事事件において控訴人のために酌むべき情状面も加味して考慮されるべきである。
(3) 以上述べたところからすると,本件裁決は,上記(1)のとおり,法律上の婚姻を予定した安定的かつ継続的な子育てを含む内縁関係の実態という酌むべき事情があるにもかかわらず,名古屋入管の入国審査官において,電話でAから事情聴取をした際,同人が真意に反する供述をしたことによるものではあるものの,結果的に同人の真意の把握を誤ったため,同人と控訴人の内縁関係の実態を十分調査せず,又はこれを無視ないし軽視するに至り,かつ,上記(2)に述べたとおり,本件刑事事件についても控訴人のために酌むべき諸情状があるにもかかわらず,控訴人にとって不利な情状のみを殊更重大視し,これをもって看過し難い重大な消極要素になると評価することによってされたものといわざるを得ず,その判断の基礎となる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるというべきであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものというほかはない。
よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由がある。
4 本件処分の違法性について
本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。

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