婚約破棄
- 婚約破棄②―法的な評価
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なるみさんは、突如、結婚相手の鈴世さんがバルセロナの日本人学校に赴任が決まり一人で赴任を決めてしまったことから、婚約はしていますが結婚に踏み切れない気持ちのまま、結納、両家の顔合わせ、結婚式の衣装選びとどんどんステップが進んで行ってしまいます。
そこで、一度、婚約により生じた婚姻というゴールへの流れを止める必要があると考えました。そこでなるみさんは、名古屋駅ヒラソル法律事務所に相談しました。
結果的に、鈴世さんの側になるみさんの法的意思として婚約を解消する旨の通知が到達したのは、結婚式の前日になってしまったのです。
両家とも、「とりあえず結婚式をしてその後離婚する」とか、「とりあえず結婚式をしてその後話し合いを持つ」といった提案がなされました。
鈴世さんは、職場の教員を多く招待しているので、結婚式が当日キャンセルでは、花嫁に逃げられてしまった男性という印象がついてしまいますが、結果的に弁護士に依頼しているなるみさんの意思は固く費用や慰謝料は、働いているので働いて返します、と宣言されてしまいました。
このような場合、鈴世さんに精神的苦痛が生じていることはそうですが、婚約不履行として賠償を求めることができます。
婚約は、気を付けないといけないのは、単なるプライベートな合意ではないということで、正当な理由のない不履行には法的な賠償責任が生じる法律行為といえます。
なるみさんの今回の行為ですが、バルセロナへの赴任は一種の配転命令であり出世を望む鈴世さんとしては、いずれにしても一度は通らないといけない問題です。
弁護士は、なるみさんに、今回は、判例でも婚約の成立には争いはないだろうから、ある程度婚姻への準備がなされている場合、性的関係が伴っている場合にあたり、婚約解消の動機や方法が、結婚式の前日であったことやバルセロナへの赴任は任期があることに照らすと、婚約解消の方法や動機が公序良俗に反し、著しく不当性がある場合に該当すると考えられます。
そこで、弁護士は鈴世さんの代理人弁護士の高藤弁護士と交渉を始めました。婚約破棄では、①慰謝料、②婚姻準備段階の過程でかかった費用の衡平な清算の2つがポイントになります。
弁護士は、鈴世さんが、バルセロナ行きを半年前に知りながらなるみさんに伝えなかったことを指摘し、鈴世さんにも相応の責任があると主張しました(破棄誘致責任)。
しかし、婚約の解消は、総合的にみて解消に正当理由がなければ、賠償責任は生じることになります。
本件の場合、17年もの交際があるのですから性格の不一致、容姿に対する不満、年回り、親の反対という要素は特にありません。したがって、婚約解消の正当性判断はないということになると考えられます。
裁判例の中には、慰謝料が発生するのは、婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるという東京地判平成5年3月31日判タ857号248ページがあります。
しかし、なるみさんは、この時点で妊娠していることに気づいていたので、後々のことを考えてなるみさんの有責性が強いと評価されることから、慰謝料についても考慮に入れて清算に入ることにしました。結婚式場代、新婚旅行などのキャンセル料、披露宴招待状の発送費用、新居用のマンションの敷金・手数料・解約金などがこれにあたります。
本件のように結婚式の1日前ということもあり、婚姻への準備が相当進んでいたり、解消した側の有責性が強い事案といえますから、婚約破棄の違法性が強いほど、それに連動して財産的損害の範囲も広がる傾向があります。
なお、結納については、婚姻が成立しなかった場合は目的不達となりますから、授与者は不当利得返還請求に基づいて返還請求をすることができます。結納は事実上の夫婦共同生活と連動しており、例えば、このあとも法律婚が成立しないの一事をもって結納の返還請求は認められないものと考えられます。例えば、夫婦別姓のため、法律婚を控えたというような場合は結納金は返還する必要はありません。