弁護士コラム

刑事訴訟法

職務質問と所持品検査

名古屋市の警察署の中には、やんちゃな警察もいます。中には二時間留め置いたり、警察官職務執行法の「保護」を用いるという裏ワザを用いている例があります。

職務質問は一種の行政処分ですから「停止する」義務が国民にはあるというのが見解となりますが強制的に何時間も止まっている義務はありません。所持品検査に関しては、最近は任意同行を求め令状の発布を受けて逮捕するという例もあるようですが、本当に任意同行なのでしょうか・・・。

 

第3編 職務質問・所持品検査

第1 行政警察活動と司法警察活動

1 行政警察活動

(1) 定義

行政警察活動とは,その目的の内容が「犯罪の予防,鎮圧」や「交通の取締」(警察法2条1項参照)などの場合をいう

(2) 司法警察活動との密接な関連

職務質問と自動車検問

⇒ その過程で具体的な「犯罪の嫌疑」が認知されることにより,直ちに捜査に移行する可能性あるし(189条2項),その過程で得られた資料・情報は証拠として利用される可能性[1]

* 警職法と刑訴法は競合的に適用されるとする見解もある[2]

2 司法警察活動

司法警察活動とは,具体的な犯罪事実の解明を通じて公訴提起の準備を行うことを目的とする捜査をいう

3 将来の犯罪と捜査(司法警察活動)

● 将来捜査が許されるかについては争いがあるが,捜査の嫌疑があいまいであったり,あるいは予防に努めるべきことを根拠に許されないとする見解

× 捜査をするについて嫌疑が確実に発生している必要はなく,発生の蓋然性があればよい。また,犯罪の予想される場合にそれを予防しなければならない根拠に乏しい

⇒ おとり捜査の論拠である「自己撞着性」の視点から将来捜査には限界があると解すべきであるが,およそ許されないわけではない

* 将来犯罪をするおそれがあるという理由で拘禁する予防拘禁は認められていない

 

 

 

 

 

 

第2 職務質問

1 職務質問の意義

職務質問とは,警職法2条を根拠にして,警察官が挙動不審者を停止させて行う質問をいう

⇒ 『不審』が刑訴法の犯罪捜査の条件となる『嫌疑』へ高まるプロセス

∵ 職務質問は捜査行為ではないが,捜査と密接な関係を有しており,質問の結果,具体的な犯罪の嫌疑が認められれば捜査が行われる

2 要件と効果

(1) 要件

① 挙動不審者であること

異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは,犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者であること

* ①の要件の方でしばしば法律問題が生じる

①’犯罪に関する何らかの情報を有していると思われる者

既に行われた犯罪について若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者であること

(2) 効果

停止させて質問をすることができる

* 「停止」は,刑訴法上の強制手段である「身体拘束」には至らない非強制(任意)手段でなければならない

(3) 制度趣旨

2条は,警察官が国民に対して停止,質問という警察作用を及ぼす場合の要件を定めると共に,その具体的権限内容を示した根拠規範

∵ 侵害留保ないし権力留保の見地

3 停止行為の限界

(1) 警職法2条3項から生じる限界

2条3項の趣旨は,対象者の意思を制圧して,身体の自由・行動の自由などの重油な法益を侵害・制約する刑事訴訟法上の身体拘束処分と評価されるような強制手段に及ぶことは許さないとする点

⇒ 非強制(任意手段)としての停止の限界をどのように評価すべきか。また,限界を超えない範囲では強制手段に至らない程度の有形力を行使する余地があるか

 

 

 

 

 

 

 

 

*職務質問のイメージ図

 

      完全に任意 行政法学上の権力行使 刑訴の強制処分

自由意思                           意思制圧

自動車検問 職務質問(行政処分) 捜索・逮捕(強制処分)

↓       ↓          ↓

組織法    作用法の根拠    刑訴法の特別根拠

* 職務質問は,「刑訴の強制処分」に至ってはいけないと2条3項にある[3]

* 組織法は,作用法上の根拠とはならないから法律の留保がない以上,権力を行使する場合にあたる行為はすることはできないと考えられる。したがって,自動車検問を警察法を根拠に認める場合は純粋な任意でなければならないということになる。なお,渡辺咲子は,「警察法2条は,組織体としての警察がその責務とすべき事務の範囲を明らかにすると同時に,警察官の行う警察活動の一般的な権限をも付与していると解されるのであって,見張り・警ら・巡回連絡・密行・張込み・検索・検問は,まさに本条を根拠として行われる活動に他ならない」とするが,そもそも,組織法が作用法上の根拠とするような解釈は行政法上はあり得ない。これはより人権侵害の程度が強くなる刑事訴訟の分野ではなおさら妥当することである。したがって,警察法は作用法の根拠とはならないというべきであり,渡辺の主張は誤りである

 

(2) 判例

ア 一般論「停止」の限界について直接一般的な説示をした判例はないが,最判昭和53年6月20日刑集32巻4号620頁[米子銀行事件]が職務質問に付随する所持品検査について以下の説示をしている)

「かかる行為は,・・・その必要性,緊急性,これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ許容される」

イ 具体的ケース

(ア) 最決昭和29年7月15日刑集8巻7号1137頁

(イ) 最決昭和53年9月22日刑集32巻6号1774頁

(ウ) 最決平成6年9月16日刑集48巻6号420頁

* 上記判例は,警察官が質問を継続する目的で『停止』の状態を作り出すため,一定の有形力を行使したことの相当性を認めたもの

(3) 学説

ア 相手方の協力がない限り一切の有形力の行使を認めない

厳格任意説(平野87)

× 警職法が質問対象者を明示限定し要件化し,具体的な「停止」という手段を採る作用法上の根拠を定めていることと整合しない

⇒ 純粋任意の質問のみできるとすれば,行政法学の視点からは法律の根拠は不要となるはず

イ 一定の場合の有形力の行使を認めるもの

⇒ 「強制手段」に至らないという枠組みの中で比例原則に従い,一定程度の有形力行使など対象者への積極的働きかけを及ぼすことがあり得ること前提

○ 規範的任意説(白取101,光藤上7)

○ 実力説(出射144)

○ 例外的許容説(松尾上44)

○ 制約説(田宮59)

この見解は,ある程度の実力行使を伴う「停止」を強制手段であると位置付けて,その合理的な限界を探り,被質問者の人身の自由等憲法上の保障を全うしようとするもの

∵ 職務質問は,刑訴法上の強制処分ではないが,多少の強制の要素が介入するのであって,これをあえて任意処分と解すれば,却って,憲法上の人権の侵害の有無について検討することなく現実を容認しておく危険がある。そこで,職務質問には,憲法31条に定める適正手続の保障の観点から合理性が認められる範囲で強制的な処分であると解する

⇒ この見解は,実質的には刑訴法上の強制捜査ではないが,行政上の必要性に基づいて認められる一種の強制手段であると位置付ける見解と同趣旨

 

(4) 検討

ア 判断枠組み

対象者の承諾・同意があって当然に許容される場合の他,ある手段を用いる必要性とそれにより侵害される対象者の法益との合理的権衡が認められるか

イ 比例原則の職務質問の停止への適用

対象者の完全な承諾・任意の協力がない場合であっても,『身体拘束』や『意に反する連行』に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,停止,同行を求めるに際して許容される場合があると解すべきであり,その適否の限界は,個別具体的な状況のもとでそこで用いられた手段の必要性,緊急性とそれにより害される対象者との法益との権衡が認められる場合に限り,相当として許容される(法教285号50頁)

 

(5) 有形力行使の限界

事例 急に逃走しようとして対象者にタックルをして倒すこと

* 一般論として,『逮捕』に用いるべき強度の有形力・物理力の行使は,対象者の意思と行動の自由を制圧する『強制手段』にあたる[4]

事例 警察官がエンジンキーを抜いて被告人による運転を阻止し,約6時間半以上も現場に留め置いた

* 対象者の身体に直接的な有形力・物理力の行使はなく,あるいはごく軽微であっても,対象者の移動の自由を制約する状態が一定時間継続し,意に反して行動の自由が奪われている場合は,意思制圧及び法益侵害の両面において,「身体拘束」にあたるとすべき(法教285号51頁)[5]

∵ 「停止」は,停止させることにとどまり,それを超えて職務質問の継続のために身体を拘束することを認めるものではない

事例 職務質問開始のための追跡・停止

* 田宮=河上「大コンメ警職法」123頁は,「職務質問をするため,停止を求めたところ,相手が逃げ出したような場合,その異常・不審な挙動によりますます職務質問の必要性が高まったというべきであって,したがって,これを追跡するのは,警察官の『当然の』職務というべき」と言い切るが,条文上は,市民の側には警察の質問に応える公法上の義務はなく,したがって,職務質問に応じる義務はないと考えられることからすれば,上記解釈には疑問が残るが,実務家が頻繁に参照する文献にこのような指摘があるのは大いに問題である

事例 職務質問続行のための追跡・停止

* より問題が大きくなるのは続行の場合であろう。職務質問はあくまでも任意手段であるから,もはや答弁したくないとしてその場を立ち去る者を追跡し,停止させることは答弁の強要にあたると解するのが正当と思われる。ところが,前掲,田宮=河上の文献は,「職務質問を継続するため逃走する者を追跡し停止を求めるのは,警察官の当然の職務とも言えよう」とする

* 実際は,ワンチャンス。ここで同行できない場合は逃亡のおそれが高く,立件自体が見送られるというケースもあるという実際はある

 

 

 

 

 

(6) 停止以外の実力行使―ホテル客室への立入り(最決平成15年5月26日刑集57巻5号620頁)

ア 事案

ホテルの客室内に居座った客に対して,ホテル責任者の要請で臨場した警察官が職務質問を行うに際し,相手方がいったん開けた内ドアを急に閉めて押さえたのに対して,質問を継続するために内ドアを押し開け,内玄関と客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ,内ドアが閉められるのを防止したこと

イ 判旨

「警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問に付随するものとして,適法な措置であったというべきである」とする

ウ 評価

● 内ドアを押し開けるという有形力の行使は,『停止』という文言にあたらず

∵ 大澤説(大澤は警職法2条1項が創設規定であることを強調し,創設された権限以外は認められないとする趣旨のようであるが相当でない)[6]

× 質問という目的達成に必要な手段というのは密接関連性がある場合に限られるので際限なく広がることはない[7]

○ 酒巻説(法教285号51頁)

⇒ 警職法により「質問」権限が認められていることから,その目的達成に必要な手段,すなわち,「質問に付随するものとして」同法の規定により併せ許容されていた手段の一つとして許容されるべき

 

 

 

 

 

第3 所持品検査

1 問題の所在

(1) 定義

所持品検査とは,警察官の職務質問にともなう付随処分として,所持者の承諾なく所持品を検査することをいう

(2) 所持品検査の考察

ア 捜索との対比

所持品検査がゆき過ぎると捜索と同視される!!

⇒ 対象者の意思を強制的に制圧し,着衣の中や身体を検査したり,携帯品を取り上げてその内容を逐一点検するような態様の行為は,『捜索』以外の何ものでもない

∵ 身体・所持品に関するプライバシーの利益を直接侵害制約するし,行為態様も捜索に類する

* 相当性を問題にすることなく違法となる

イ 問題となる類型

  類型 評価(白取102)
所持品を外部から観察し,所持品について質問する行為 職務質問の一態様
相手方の内容物について開示を要求する行為 職務質問の一態様
衣服・携帯品の外部から手を触れて検査する行為 判例は許す場合あり
警察官自ら所持品を取り出し,検査する行為 判例は許す場合あり

(3) 問題点

① 所持品検査には作用法上の根拠がない[8]

② 捜索に至っていないか,所持品検査として相当性があるか

 

2 所持品検査の許容性

(1) 法的根拠

ア 現行法の規定振り

(ア) 警職法2条4項

(イ) 銃刀法24条の2

(ウ) 1958年の警職法改正案の廃案(白取103)

⇒ 現行法からは消極方向になりがち[9]

イ 警職法2条1項は法的根拠となり得るか

職務質問に際して行われる所持品検査は,警職法2条1項の定める「質問」という本来的目的達成のため,質問に密接に関連し必要不可欠な場合に限り,これに付随するものとして併せ許容されている

∵ 権力留保理論と整合的な理論的説明はこれしかない

⇒ 承諾なき所持品検査の根拠規範は警職法2条1項に黙示的伏在(酒巻,大澤はこれを批判する[10]

 

 

 

 

3 所持品検査の具体的限界

(1) 判例(最判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁)

所持者の承諾を得て任意に行うのが原則であるが,所持者の承諾がなくても,「捜索に至らない程度」の行為は許容される場合がある。許されるのは,所持品検査の必要性・緊急性,所持品検査によって害される個人の利益と,保護されるべき公共の利益とのバランスを考えて,具体的状況のもとで相当と認めらられる限度

(2) 捜索に至らない程度

ア 理論的根拠

捜索に至る程度の所持品検査が許されない論拠は,憲法35条と警職法2条3項に求められる

イ 問題意識

『捜索に至らない程度の行為』と『事案の具体的状況を問わず違法というべき無令状捜索』との区別はつくのか(類型④の態様の所持品検査は『捜索』ではないのか)?

○ 調査官解説

証拠物の発見を目的としてするような態様であってはならず,所持品が何であるかを確認するにとどまる行為であれば,捜索ではないと解すべき

×① 確認の結果それが証拠物と認められればその行為は証拠物の発見となる

② 明確な区別がつかない

* 捜索に当たりえる場合

① 施錠されたアタッシュケースのこじ開け

② 自動車の車内探検

∵ 質問の付随行為ともはやいえず,証拠収集を目的としているから

(3) 相当性の判断について

  米子銀行事件判決 大阪覚せい剤事件判決
必要性・緊急性 ①凶器所持のおそれ

②強盗事案

⇒必要性・緊急性高度

①薬物犯罪という軽い犯罪

②凶器なし

⇒判例は肯認できると(微妙)

相当性 ①所持品であるバッグ

②施錠されていなかった

③チャックの開披・一瞥

①着衣の内ポケット

⇒ 着衣の中まで調べると違法になることが多い

*大澤は,最判昭和53年9月7日と最決平成7年5月30日はいずれも覚せい剤事犯であることから,覚せい剤では所持品検査が許される範囲が狭くなると解しているように思われる

 

 

 

 

 



[1] たしかに,犯罪があると思料するまではその作用は行政作用というべきであるが,そこでの違法は刑事裁判の証拠能力に影響を与えるので刑訴法学の考察対象となっている。法教285号48頁は,「職務質問段階に違法があった場合には,これに接着・後続した捜査手続との密接関連性・直接的な因果関係が認められる限り,その違法は,移行後の捜査手続の適法性に影響する」としていることからも刑訴法学の考察の対象とするのは正当と思われる。

[2] 警察官の主観としては,行政警察活動のつもりでも,客観的にはある犯罪の嫌疑に基づいてその解明のために行われていると評価できる場合がある。このような場合は,形式的には職務質問でも,実質的には捜査そのものであるから,その実質に併せて,刑訴法を競合的に適用しようという見解である。

[3] 法教285号49頁も「2条3項は刑事訴訟に関する法律の『特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段』である『身体拘束』や『意に反する連行』と評価されるような措置を採り得ない」とするが同趣旨と思われる。

[4] ただ,法教285号51頁は,対象者の行為態様に即応して,『停止』状態を作り出すため即時的に強度の有形力を加える措置については,上記の一般論に対する例外を認める余地があるとする。たしかに,理論的には一瞬的に強度の有形力が加えられても直後に再び職務質問のレベルに復帰したとみれば,全体的に「身体拘束」に至ったと評価するのは不当な場合もあると思われる。そこで,上記見解は,停止の際の有形力行使が具体的状況のもとで権衡していたかどうかの問題と捉えることが適切とする見解の可能性を主張するが,私見は,「一瞬的な強度の有形力」の程度・時間的な長短に左右されると考える。なお,この見解の問題意識は,警察官のタックル行為の時間的な短さにあると考えられる。法教285号51頁は,最決平成6年9月16日を指摘して,「対象者の移動の自由を制約する状態が一定時間継続した」ことを強調していることからも裏づけられよう。

[5] 酒巻は,最決平成6年9月16日は,刑訴法の規定によらない違法逮捕があった事案と見るべきとする

[6] 大澤は判旨を批判している。というのも,警職法2条1項の「停止」の中に内容を色々含ませると際限がなくなると主張する。特に,所持品検査は,「職務質問の効果を上げるうえで必要性,有効性の認められる行為であるから,警職法2条1項による職務質問に付随してこれを行うことができる場合がある」とする米子銀行事件の説示について,「役に立つから許されるのでは限界がなくなる」と批判する。

[7] たしかに,大澤の疑問にも首肯できる点はないではない。というのも,大澤のいうとおり警職法2条1項は創設規定であることは争いがない。この点,一部実務家が警職法2条1項は警察法で創設された権限を確認したにすぎないとする確認規定説を主張するが,行政法学の見地からすれば,権力は法律に留保されているところ,警察法は組織規範にすぎないから,これを作用法の根拠とする立論は主張自体が誤りである。したがって,私見も警職法2条1項が創設規定とする点には何ら異論はない。しかしながら,「創設規定であるから,『停止』以外の実力行使はできない」との命題を承認するのは早計である。すなわち,職務質問に付随する措置を認めても,職務質問との密接関連性が認められる限り,警職法2条1項で授権されていると解することが可能と思われる。したがって,大澤の批判の骨子は,①明文の根拠がない,②警察法2条の「警察の責務」を根拠にするのは不当である,―という点にあると思われるがいずれも失当である(法教285号51頁参照)

[8] なお,この問題点①を論証する必要があるのは,未だ警察官が犯罪があると思料する前に限られる。なぜなら,警察官が犯罪があると思料している場合は,197条1項本文を作用法上の根拠にできるから,作用法上の根拠がないとする主張は失当だからである。したがって,「明文の根拠がないため問題となる」という問題提起の射程は意外と短いことを自覚しておく必要がある。この場合は,問題点①を省略し,相当性の判断に移ればよい(法教286号59頁)

[9] ただ,白取104ですら,所持品検査を全部否定するのは,「反対の意味でゆきすぎ」と指摘していることから,可能であることを前提にその限界を画するアプローチが支持されるといえよう。白取は,所持品検査を嫌疑解明行為と職質保全行為に分けて,前者の所持品検査を否定し後者を肯定するが,逆にいえば,職質保全行為であれば問題なく適法といえよう。もっとも,この点について理論的説明を加えるのは困難な問題である。というのも,2条4項は「逮捕されている者について」の規定であるから,2条4項を根拠とすることはできない。そこで,川出は,「警職法2条1項の質問権限が認められていることを根拠として,その安全な目的達成に必要な措置として,あるいは妨害排除措置としてこのような行為も当然に併せ許容されている」とする。これは,理論的には苦しい説明といえよう。「質問に付随する行為」として2条1項が作用法上の根拠になるとする点で理論的には無理があるからである。

[10] なお,この点については東大系の学者は判例を論難するが私見はこれに首肯できないものである。すなわち,法教286号60頁は,①2条3項が捜索を意識した叙述がないこと,②職務質問と比較して,停止させる行為とは異質の身体や所持品に関するプライバシーの利益を侵害制約するもの―と批判する。そして,判例は,「根拠規範の不要な侵害的警察作用を認知したもの」と結論付ける。酒巻の言わんとすることは,伝統的な侵害留保理論を判例が採用していないと解する余地はなく,かといって,警職法2条1項はその根拠として十分ではないとする点にある。突き詰めれば,警職法改悪法案の復活を求めている,と読めると考えられる。たしかに,酒巻や大澤の主張するように,被侵害利益が警職法2条1項の許容したそれと比較すると異なるところがあるとの見解は真に傾聴に値するところがある。なぜなら,警職法2条1項は「停止させ質問」という効果しか定めていないわけで,そこで被侵害利益として立法者が認知している利益は,①警察官に質問されることにより一定範囲のプライバシー,②質問のために停止させられることを余儀なくさせる場合に,行動の自由という利益―と考えられるからであり,身体や所持品についてのプライバシーや財産権の制約が認知されているとはいえない。もっとも,判例は,職務質問の効果を上げるうえで必要かつ実効的な場合,言い換えれば密接関連性がある場合に所持品検査を許容したものと解される。そうだとすれば,判例は,あくまでも立法者が認知している利益の侵害にとどまり,「身体や所持品についてのプライバシーや財産権に対する制約」については,問題にする必要がないほど軽微な場合に限り許容する趣旨と解することも可能と思われる。すなわち,真に質問をするにつき,その質問の実効性を挙げるという関係にある場合は上記の利益制約は問題にするほど軽微であるといい得るように思われる。このように解する限り,酒巻が述べるような「根拠規範の不要な侵害的警察作用を認知した」とする批判は当たらないように思われる。

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