捜索・差押え
捜索・差押えは、人身の自由に対する制約の程度と比較すると緩やかなものですから、逮捕・勾留に先行するのが望ましいとされています。
ただし、その後の解析によって、逮捕状の疎明資料とされることも多いですから弁護士に相談されると良いでしょう。
第8編 捜索・差押え
第1 物的証拠の収集保全
1 定義
物的証拠の収集保全とは,捜査段階で物的証拠を収集・保全するための強制処分一般をいう
2 捜査機関を主体とするもの
(1) 捜索・押収
ア 捜索
捜索とは,被疑者・被告人または証拠物などを発見するために,住居など一定の場所・物・人の身体についておこなう強制処分をいう(102条,126条,220条1項)
* 被疑者を捜索することができる
「被疑者が逮捕する場合において」の意義
* 「必要があるとき」の意義
被疑者が現在する可能性が高く、人の住居内に立ち入って被疑者を捜索する必要があるとき
単に捜査機関においてその主観において必要があると判断するのみでは足りず,客観的にもその必要性が認められる場合
イ 捜査機関による押収
押収とは,捜査機関が,証拠物や没収すべき物の占有を強制的に取得する処分をいう(押収は,差押えと領置の上位概念)
(ア) 差押え
差押えとは,証拠物または没収すべき物の占有を強制的に排除して,その占有を取得する処分をいう
(イ) 領置
領置とは,被疑者・被告人その他の者が遺留した物,または所有者・所持者・保管者が任意に提出した物について,占有を取得することをいう(101条,221条)
* 別件のメモが遺留された場合(被疑事実と関連性が薄い覚せい剤の証拠)
別件なので220条により差押をすることはできない
検察庁の捜索では,社員名簿を差し押さえるけれども,名簿には「強盗」とか書いていないが,他の証拠と組み合わせることから差し押さえることもある。領置することができる。被疑事実との関連性は占有の移転は任意的なものであるので,事件との関わりは薄くてもよい
遺失物として行政警察活動として預かるというのもあり得る。
* 裁判所による押収
差押え・領置・提出命令(99条2項・100条1項2項)
(2) 検証
検証とは,場所や物または人の身体について,その存否や形状・性質などを五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)によって認識する強制処分をいう(218条)
(3) 電気通信の傍受
3 捜査機関以外を主体とするもの
(1) 鑑定受託者による鑑定処分
鑑定とは,特別な知識・経験に基づく,法則そのものの報告,またはその法則を具体的事実に適用して得た判断の報告をいう(223条1項)
* 鑑定受託者とは,捜査機関の嘱託による者をいう
* 鑑定受託者は,鑑定処分許可状によって,人の住居などへの立入り,身体の検査,死体の解剖,墳墓の発掘,物の破壊をすることができる(225条・168条1項)
* 鑑定処分としての身体検査は,条文上直接強制はできない(225条4項により168条6項[139条が準用されておらず直接強制はできない])
第2 令状による捜索・差押え
1 「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」の具体的要件(218条)
(1) 令状発付の要件
① 犯罪の嫌疑があるか
∵ 捜索・差押え許可状は,「正当な理由」(憲法35条1項)に基づいている必要があるので,犯罪の具体的嫌疑が必要
* 捜索・差押えの対象者となっている人に対する嫌疑に限られない
* 嫌疑の程度は,逮捕の場合よりも低くてよい[1]
② 特定の押収物が存在する蓋然性があること
∵ 被疑者以外の者に対する捜索は,「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」があること(222条1項・102条2項)[2]
③ 狭義の捜索の必要性があること
* 捜索を行わなければ,捜査の目的を達することができない事由(218条1項)
* 捜査の必要性と対象者が被る不利益の程度の比較衡量
(2) 差押えの要件[3]
④ 証拠物又は没収すべき物と思料するものであること(222条1項・99条1項)⇒被疑事件との関連性
* 有体物に限られ,身体を差し押さえることは許されない
④’郵便物及び電信書類の特例(222条1項・100条)
∵ 郵便物は開封しなければ関連性が判明しないので要件が緩和
⇒ 違憲論があるがすぐ還付させることを条件とする合憲論が主流
* パソコンの包括差押えの肯否の手がかりとなる規定
(3) 警察官は,Aの自宅として捜索したが第三者の自宅であった場合
ア 事案
Bが「Aは3日前に転居した」と申し立てた場合
イ 考え方
すでに述べたように,ここでの考え方は,令状発付の要件を満たすかが問題である。したがって,証拠存在の蓋然性の要件との関係が最も問題となる。刑訴法222条1項・102条2項によれば,第三者に対する捜索の要件として証拠存在の蓋然性が挙げられている。もっとも,被疑者の自宅の場合は一般的に証拠存在の蓋然性が認められるのに対して,第三者の場合は必ずしも認められるとは限らないことから,要件として具体的に指摘されているものと考えられる。
したがって,被疑者の自宅であるか第三者の自宅であるかを問わず証拠存在の蓋然性があるかが問題となる。そして,時的な要素の問題として,証拠存在の蓋然性は厳密には,「令状発付」の要件であるが,捜索時にもかかる状況が継続している必要があると解釈するのが一般的である。
被疑者以外の第三者の場合は証拠存在の蓋然性が低いのであるから,捜索・差押をする捜査官としては,捜索すべき場所の居住者に変動があったと申告された場合には,家屋について同一性があるかを確認し,家屋違いではないと判断された後は,BとAとの間に密接なつながりがあるかを確認するべきである。
そして,BとAとの間に密接なつながりがあれば,Bのいうとおり居住者に変動があったとしても証拠存在の蓋然性は肯定されるので,捜索は適法であると考えられる。コメントでは,捜索しようとした当該場所が令状に記載された捜索の対象になるかは,令状執行にあたる捜査官の判断にゆだねられ,その判断が当時の諸情況から是認される以上,捜索は適法とする趣旨とされる。
ウ 最決昭和61年3月12日判時1200号160頁
麻薬取締官は、新宿区所在のグレイハイツA号室に住むWが大麻を所持しているとの情報を得、内偵したところ、郵便受の表示等からグレイハイツA号室に被告人とWが同居している状況を認めたため、Wを大麻取締法違反事件の被疑者、捜索すべき場所を右グレイハイツA号被疑者居室、差し押えるべき物を大麻等とする捜索差押許可状の発付を裁判官から得たうえ、グレイハイツA号室を訪れ、応対に出た被告人に対し、令状を示してWに対する大麻取締法違反の捜索令状であることを告げ、「Wはいるか、どこへ行ったか」と尋ね、被告人が「いない。一週間前に出て行った」と答えたのに対し、「Wの荷物はあるか」と更に尋ねたところ、被告人が「二、三ある」旨答えたので、「捜索する。立会人になってくれ」と告げ、次いで被告人に対し大麻を持っているなら出すよう言って、その所持していた大麻の提出を受けたというのである。
捜索時においてはWは転居しておったとしても、麻薬取締官が、郵便受の名前の表示、同室の構造や室内の状況,及び二、三の荷物がある旨の被告人の返答から、前記令状による右グレイハイツA号室の捜索が許容されるものとして、その捜索を実施したのは適法である。
(4) 捜索に必要性の審査
(5) 報道機関の取材ビデオの差押え
2 令状の発付
(1) 手続
ア 請求権者
令状の請求ができるのは,検察官,検察事務官又は司法警察員に限られる(218条3項)
* ただし,司法警察員は犯罪捜査規範137条でさらに限定
イ 請求の方式
① 令状請求書の記載要件(219条,規則155条)
② 令状請求書に添付を要するもの(規則156条)
ウ 令状の方式(219条)
捜索差押令状には,「差し押さえるべき物」の記載が要求
∵ 憲法35条の要請
(2) 特定性の要件
ア 特定の必要性(白取121)
憲法35条は,捜索「場所」,捜索「物」の明示された令状でなければならないとし,法219条1項もこれを受けて,「罪名」,「差し押さえるべき物」,「捜索すべき場所」などの記載を要求
⇒ 実際にどの程度の特定が必要かが問題!!
イ 特定の趣旨
① 憲法35条の「正当な理由」の判断のため
② 捜査機関に対する権限の範囲の明確化
③ 被処分者に対する受忍範囲の明確化
(3) 「差し押さえるべき物」の特定
ア 概括的記載の必要性[4]
● 特定は憲法35条の要請なので,ルーズな方法は許されず
× 捜査は比較的早い段階で一般に流動の要素が強い
○ 個々の物の個性まで明記・特定を要求するのは現実的ではない
∵① 目的物には常に独自の特徴があるわけではない
② 目的物の個別的な特徴まで判明していないことが多く予測に依存
③ 「物から人へ」の捜査
イ 概括的記載の限界(都教組事件[最大判昭和33年7月29日刑集12巻12号2776頁])
(ア) 令状の記載[5]
罪名・・・「地方公務員法違反」
捜索すべき場所・・・「東京都教職員組合本部」
差し押さえるべき物・・・「会議議事録,闘争日誌,メモ・・・その他本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」[6]
(4) 検討
東京高判昭和47年10月13日判時703号108頁
ア 令状の記載
罪名・・・「公職選挙法違反」
差し押さえるべき物・・・「本件犯行に関係する文書,図画,メモ類など一切」
イ 判旨
「本件に関係を有する」という限定的文言があるとはいっても,被疑事実を記載したものが添付されているわけではない。そうすると,「本件に関係を有する」という文言は限定的な効果が高いものとはいえない。本件令状の記載は,①具体的な物件を特定していないし,②その物件の一部を例示すること,③詳細な説明的限定的文言も付していない。以上に照らすと,本件令状は,余りにも概括的すぎると解すべき[7]
ウ 検討
包括的な文言の記載をする場合は,「本件」を具体的に明らかにする必要あり
⇒ 目的物が,被疑事実との相関において初めて特定される場合[8]には,令状自身にもそれを記載し添付が必要!!
* 実際の令状実務でも,都教組事件のような記載をする場合には,目的物特定のため,「被疑事実の要旨」を令状に添付する運用もある(演習112)
(5) 「捜索すべき場所」の特定(白取122)
ア 管理権を単位として特定する必要
⇒ 1個の建造物でも,それぞれの場所ごとに必要
イ 佐賀地決昭和41年11月19日下刑集8巻11号1489頁
(ア) 場所の特定性の程度
捜索場所・・・佐賀県教育会館内の・・・支部事務局が使用している場所及び差押え物件が隠匿保管されていると思料される場所」
(イ) 判旨
場所の記載はその特定を欠く違憲,違法なもの
3 捜索・差押えの実行
(1) 捜索・差押えの手続
ア 令状の提示(222条1項,110条)
∵ 手続の明確性と公正を確保し,処分を受ける者の利益を保護
イ 令状の提示と必要な処分(222条1項,111条)
(ア) 差押え又は捜索をするときは,錠を外し,封を開き,その他必要な処分をすることができる
(イ) 押収物についても,これらの処分をすることができる
* 最決平成14年10月4日刑集56巻8号507頁
(2) 捜索の範囲
ア 問題の所在
刑訴法は,捜索の対象を「人の身体,物又は住居その他の場所」としており(222条1項,102条1項),「場所」と,人の身体及び所持品とは文理上区別している。したがって,捜索対象が「場所」であり,場所の明示にとどまっている場合は,人の身体や人の所持品は対象とはならないのが原則といえる。
他方,ある場所に対する捜索令状を執行する際に,その場所に居合わせた者が着衣や鞄の中に捜索の目的物を隠匿している疑いがあるが,その身体や所持品自体に対する捜索令状は発付されていないという場合に,場所に対する捜索自体あるいはそれに必要な処分としてその場に居合わせた人の身体や所持品を捜索したいという相対立する要請をどのように調和させるのかという問題(川出敏裕「捜索の範囲(1)」百選[第7版]48頁)
イ 場所に対する令状による場所に置かれた「物」の捜索
(ア) 原則的処理
捜索場所に置かれた物(タンスや机,あるいはバッグなど,その場所にあることが予定されている物)は,当然,「場所」の概念に含まれる
∵ 令状を発付する裁判官も,それを前提として場所に対する捜索令状を発付しているといえるから
(イ) 例外的処理(第三者に管理権があるもの)
たまたま居合わせた第三者がそこに置いている物は含まれない(第三者が持っているバッグなども「場所」には含まれない)
∵ それは本来,その場所にあることが予定されていないものであるから,その物に対するプライバシーの利益が,「場所」に対するプライバシーに対する制約の範囲に包摂されていないから
(ウ) 再例外的処理
第三者に管理権があっても,被処分者に管理が委ねられている場合
⇒ 独立に保護されるべきプライバシーの期待が大きいとはいえない
* ただ,自動車は,第三者が管理を委ねているという場合であっても,錠がかかっている場合は,なお期待するべきプライバシーがあるので,別途令状が必要
ウ 場所に対する令状による人の「身体」(着衣・所持品)の捜索
(ア) 原則的処理
その場に居合わせた者の身体は,「場所」の概念には含まれない
∵ 身体に対する捜索によって侵害される人身の自由やプライバシーの利益は,場所に対するプライバシーとは異質であって,そこに包摂されない
(イ) 例外的処理
捜索場所に居合わせた者が,捜索の目的物を隠匿したり,あるいは破壊しようとする場合
⇒ 捜索に「必要な処分」として,その者の身体などを捜索できる
∵ 人の身体は「場所」の概念には含まれないし,第三者の所持品は「場所」の概念に含まれない。とすれば,原則として別個の令状が必要となる。
しかし,法が一定の強制処分を認めている以上は,それに付随してその目的を達成するために必要不可欠な最小限度の強制力を行使することも法は許容していると考えられる。また,捜索令状の執行について必要な処分を行うことを認めた刑訴法の規定(222条1項,111条1項)は,これを確認したものというべき。ただし,必要であればいかなる処分をするということができるわけではないが,当該処分に対する直接的な妨害行為を排除することは,当該処分の執行のために最低限に必要なことといえる。したがって,妨害を排除するために必要最小限度の強制力の行使は許される範囲にあると解される
* 具体的には,人の身体や所持品の捜索ができる[9]
* 最決平成6年9月8日刑集48巻6号263頁[10][11]
*令状による捜索の範囲のまとめ図
パターン | 「場所」であるか | 「必要な処分」か | |
Ⅰ | 居住者が捜索場所に置いた物 | 含まれる | |
Ⅱ | 第三者が捜索場所に置いた物 | 含まれない | 行えない |
Ⅲ | 居住者が鞄を手に持っている場合の鞄 | 含まれる | |
Ⅳ | 第三者が鞄を手に持っている場合の鞄 | 含まれない | 緊急の原状回復[ただし,慎重] |
Ⅴ | 居住者の身体 | 含まれない | 緊急の原状回復[柔軟で足りそう] |
Ⅵ | 第三者の身体 | 含まれない | 緊急の原状回復[ただし慎重] |
エ 令状呈示後に他から搬入された荷物(最決平成19年2月8日刑集61巻1号1頁)
(ア) 判旨
「所論は,上記許可状の効力は令状呈示後に搬入された物品には及ばない旨主張するが,警察官は,このような荷物についても上記許可状に基づき捜索できるものと解するのが相当であるから,この点に関する原判断は結論において正当である」
(イ) 理由
① 刑訴法219条1項が捜索場所の記載を要求する趣旨は,住居の不可侵という利益を保護する点にある。この趣旨からすれば,捜索実施中に他の場所から捜索すべき場所に持ち込まれた物について捜索をしても,新たな住居権の侵害を生じるわけではない。よって,新たな住居権の侵害がないので新たな令状もいらない。
② 裁判官の令状審査は,物の存在の蓋然性を審査するのであり,令状審査にあたりいつ物が持ち込まれるかを審査していないので,捜索差押許可状について時的に効果が制限されるとは考えられない。
③ 令状呈示には,令状呈示の時点において捜索場所に存在する物に限定して捜索が許されるという効果があるわけではない。裁判官は,物の存在の蓋然性を審査するのであり,令状審査にあたり物がいつ持ち込まれるかは問題としていない。また,令状呈示の趣旨は不服申し立ての機会を与える点にあるので,捜索の範囲を限定する趣旨はない。
* 一般的に,捜索場所から搬出される場合にはどうかという点が学説の興味の対象であり,本件では逆に外から搬入される場合はどうかという事例である。従来の学説が搬出され,第三者の庭に落とされたという場合については,新たな住居権の侵害があるので令状が必要ではないかという議論があったが,これとの比較で言えば,すでに住居権の侵害が令状により開かれているところに搬入されるのであるから,令状の範囲内の差押であれば比較的問題の少ない事案であると解することができよう
(3) 差押えの範囲
ア 令状記載の差押え目的物
イ 類型性
ウ 関連性
エ 包括的差押え(コンピュータの差押え)
(ア) 問題の所在
捜索の場所や差押えの対象物は特定するのが原則であるから,選別・確認をすることなく,むやみにディスクを差し押さえることはできない。他方,ディスクは可視性・可読性がなく内容を確認したうえで差し押さえるのことが困難
⇒ 2つの相対立する要請をどのように調和させるかがここでの問題
(イ) 判例(最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁)
判例は,①被疑事実に関する情報がそのディスクに記録されている蓋然性があり,②記録されているかどうかを,差し押さえの現場で確認していたのでは,記録された情報が損壊される危険がある場合―には,ディスクについて内容を確認しないで差し押さえることができるとする
(ウ) 内容確認せずに差押えができる根拠[12]
A説
差押えをするためには,「証拠物又は没収すべき物と思料するものであること」(222条1項・99条1項),すなわち,被疑事実との関連性が要件となる。この点,「被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められること」を代替要件として,差押えを認めるという見解
∵ 差押えそのものを無意味にするような内容確認・選別作業は,予定されず
×① 関連性の要件は相当稀釈化される
② 事実上,被疑事実との関連性がない可能性のある物件の差押え処分を認めることになり,令状の明示を要請する憲法35条の趣旨に反する
B説(法教294号110頁)
捜索の現場で被疑事実との関連性を的確に判断できる状況にない場合は,関連性のある物件を差し押さえるという処分の目的実現に「必要な処分」として,対象となり得る物件を一括して関連性の判定に適した最寄りの場所に運搬・移動して,検分したうえで,被疑事実との関連性の認められる物件のみを差し押さえた後,その余の物件を元に戻す措置を採るのが妥当
⇒ 問題の本質は現場で内容を確認できないことにあると見て,確認の「場所」を緩やかに解する見解
×① 警察署など別の場所への運搬は「差押え」ではないとなるから,被処分者に対して押収品目録の交付(120条,規則96条)もなされず,準抗告もできない
② 内容の確認と選別は警察署など別の場所で行われるから,被処分者の立会いは許されない(114条2項・222条1項)
*各説の擬律のイメージ
社会学 ディスクを探す 警察署へ運搬 選別 返還
的視点
捜索
A説
捜索 捜索に「必要な処分」 捜索
B説
第3 令状によらない捜索・差押え
1 無令状で許される趣旨
(1) 明文の規定
憲法35条「・・・33条の場合を除いては」
刑訴法220条1項2号(被疑者を逮捕する場合に・・・必要があるとき)「逮捕の現場で差押え,捜索又は検証をすること」
(2) 学説の状況
ア 相当性説
相当性説とは,証拠存在の蓋然性が高く裁判官に事前に司法審査をしてもらうまでもないとする見解
⇒ 逮捕にともなう捜索・差押えは,「合理的な」「令状を執行するのと同等の」捜索・差押えの一態様
×① 令状主義の意義を低下させる
② 逮捕が行われる場所は様々であり,常に捜索・差押えの要件があるとはいえない
③ 蓋然性を問題とすると,「逮捕する場合」という時間的制約の機能がない
イ 付随処分説
付随処分説とは,逮捕という重大な権利の制約が行われる以上,これに付随して捜索・差押えを許しても新たな権利・利益の制約は生じないから,独自の令状審査に付するまでもない(「大は小を兼ねる」の理論)
⇒ 逮捕にともなう捜索・差押えはあくまでも令状に基づいているとなる
×① 裁判官が発付したのは逮捕状であって,捜索・差押え許可状ではない
② 侵害される法益が一致していないのに,なぜ大は小を兼ねるのか
ウ 緊急処分説(寺崎119)
緊急処分説とは,逮捕に際して証拠が隠滅されることを防ぎ,証拠を保全する緊急性があるから,令状なしで捜索・差押えができるとする見解
⇒ 緊急な場合を令状主義の例外と位置付ける(判例も「例外」としている)
*各説の理解は,令状主義に対する理解の違いに由来する[13]
2 時間的限界―「逮捕する場合」(220条1項)
(1) 判例(最大判昭和36年6月7日刑集15巻6号915頁)
逮捕する場合とは,逮捕との時間的接着を必要とするけれども,逮捕着手時の前後関係はこれを問わない
⇒ 逮捕のため被疑者宅に赴いたが不在であったので,まず捜索をして,その後,帰宅した被疑者を逮捕した場合も,「逮捕する場合」に当たると判示
(2) 判例の問題点
ア 緊急処分説からの批判
(ア) 原則
緊急処分説からは,逮捕に伴う捜索・差押えが認められるには,逮捕に着手している必要がある
∵ 被疑者が逮捕に際して証拠隠滅を図ることを防止することが基本
(イ) 例外
証拠を保全すべき緊急性があれば,逮捕の着手前でも許される場合あり
(ウ) 判例に対する評価
本件では,証拠隠滅の危険性もなかったのであるから,上記の例外の場合に該当しない。したがって,被疑者が現場にいないにもかかわらず,逮捕に伴って捜索・差押えをすることは絶対に許されない
イ 相当性説からの批判[14]
⇒ 相当性説からも,最低でも被疑者が現場にいなければ相当性なし(大澤)
3 場所的限界―「逮捕の現場」
(1) 判例(東京高判昭和44年6月20日高刑集22巻3号352頁)
ホテルのロビーで逮捕された場合であっても,被疑者が逮捕される直前までいた部屋を捜索することは許される
(2) 検討
ア 緊急処分説からの帰結
(ア) 原則
逮捕にともなう捜索・差押えが許されるのは,現に被疑者を逮捕した場所
⇒ 逮捕の現場とは,その身体及びその直接の支配・管理下にある場所をいう
(イ) 例外
被疑者が実質的に支配していると認められる場所まで拡張してよい
(ウ) 判旨の評価
ホテルのロビーにいても,実質的に客室も被疑者が支配しているといえるので正当(寺崎120)
イ 相当性説からの帰結
大澤は,相当性説からしても,本件客室は管理権を異にしている。また,この客室には同室者がいたため,第三者の新たなプライバシー侵害がある[15]
4 被逮捕者の身体・所持品の捜索・差押え
(1) 問題の所在
「逮捕の現場」で差し押さえるのが適当でない場合,警察署など適当な場所に被疑者を連行したのちに差し押さえることは許されるか
(2) 判例(最決平成8年1月29日刑集50巻1号1頁)
逮捕現場付近の状況に照らし,捜索・差押えが適当でないとき(①被疑者の名誉などを害する,②被疑者らの抵抗によって混乱が生じる,③現場付近の交通を妨げる,の各「おそれ」を例示)には,速やかに被疑者を捜索・差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行したうえ,実施することも『逮捕の現場』における捜索,差し押さえと同視できる
* 捜査官の「その場所が差押えに適しないという判断」が具体的状況の下で相当であったか否かの検討は欠かせない[16]
(3) 学説
● 身体という「現場」には実質的な変更はない
× 「逮捕の現場」の概念を不当に拡大し,文理解釈からも問題
● 逮捕の現場における捜索,差し押さえと同視できる(判例)[17]
× 同視できるだけで例外を認めるのは,強制処分法定主義に反する
● 大澤は,移動させるのは,「必要な処分」とする[18]
5 差し押さえるべき物
逮捕の理由となった被疑事実との関連性
⇒ 逮捕・被疑事実と関連性のないものは差し押さえることはできない
* 内縁の妻の家から被疑者が逃走した場合において,逮捕状に基づいて令状に基づかず捜索をすることができる。プライバシー侵害の程度をみても,すでに,220条1項1号に基づいて内縁の家に入ってしまっている。したがって,すでに内縁の妻のプライバシーは開かれているので,これを妨げる事情もない
[1] 嫌疑の程度の差は条文にもあらわれている。逮捕の場合は,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(199条1項)が要求されるのに対して,捜索ではそのような規定はない(218条1項対照)。また,令状に罪名などの記載が要求されるのにとどまっている(219条1項)。
[2] この222条1項・102条2項は,「被疑者以外の者にかかわる捜索」についての規定のはずであり,「被疑者にかかわる捜索」は,捜索の必要性(218条1項)があれば足りるとも思える(寺崎106)。しかし,大澤は,102条2項だけでなく,被疑者を対象とする場合にまでその趣旨を拡張して要件と解しているようである。白取121も同趣旨を述べている。たしかに,特定の押収物が存在する蓋然性がないのであれば,翻って,寺崎の整理でも「捜索の必要性」は否定されることになり,実質的な違いはないと解される。そうすると,102条1項のようなケースでは,もともと蓋然性があるので,102条2項と比較するとき102条1項では明示の要件とされていないと解するようである。
[3] なお,捜索の目的物は,「押収すべき物」(102条・119条)である必要があるが,差押えの目的物についての要件を本文に記載したので,重複すると考え要件としてあえて書かないことにした。
[4] 注意が必要なのは,「物の概括的記載」(白取122)が中心となるという点である。それ以外の概括的記載が問題となる場合は注意が必要である。
[5] 令状の特定の要請は,差押えという強制処分について捜査官の権限を明らかにして,被処分者に受忍範囲を明らかにする。そして,物については概括的記載は認められやすいことに照らすと,「特定の押収物が存在する蓋然性があること」という要件の判断は,場所についての判断が重要となる。また,捜索すべき場所が同じ記載であっても,何を「差し押さえるべき物」とするかにより,建物の中のどこを捜索するかの範囲が異なってくると考えられる。
[6] もし,「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」という記載しかない場合には,裁判官は,「特定の押収物が存在する蓋然性があること」という要件を審査することができなくなる。したがって,この記載のみで特定の趣旨を満たすと解する余地はない(大澤)。もっとも,都教組事件の場合は,具体的な「例示」がある。そうすると,上記の包括文言を「例示に準じるもの」と限定解釈を施して読むことによって,かろうじて裁判官は上記要件の審査が可能になると解される。しかしながら,注意すべきは,都教組事件の例示も,一定の「類型」を示しているにすぎないという点である。したがって,限定する類型が付されていても,物が「差し押さえるべき物」にあたるかの判断は,現場の捜査官の関連性の判断に委ねられてしまうと考えられるので,その限りでは,裁判官の審査が及んでいないと見ることもできる。そうすると,特定性の要請の趣旨に反すると解することが可能である。したがって,このような捜索・差押え許可状は当然に適法と考えてはならないという見解も成り立つというべきである(白取122参照)。
しかしながら,大澤は,差押目的物は,あらかじめ特徴を示して令状に記載するのは困難というべきでこれを貫徹すると捜査が糾問化するなどの弊害が生じるとする。したがって,このような包括文言による概括的記載も許されてよいとする。その理由付けは以下のようなものであると解される。すなわち,ここで問題となっている令状の記載は,「捜索許可状」の「押収すべき物」(102条,119条)の要件の特定性の問題と解される。そもそも,捜索は,差押えと同時に行われるものであるところ,一定の類型があるものの中から関連性があるものを選別するのは,捜索の一環として許容されていると解される。そして,捜索の結果として分けられた結果,差押えの目的物である「証拠物及び没収すべき物」(222条,99条)が特定するにすぎないと解される。この捜査官の選別が合理的に行われる限りでは適法といわざるを得ないものと解される。
問題は,どのように捜査官の判断の合理性を担保するかという点にある。合理性を担保するのは,「罪名」すなわち,「本件に関係ありと思料」の「本件」の部分をより具体的に記載することを要求することで合理性を担保することが可能となる。大澤は,本件では,「地方公務員法違反」と罪名の記載が漠然としており捜査官の恣意を防止し合理性を担保することができないと指摘している(白取122も同旨)。そして,少なくとも罰条を記載しなければ,特定に欠ける場合があると指摘している。大澤は,この点では実務も工夫が見られるとする。
[7] 47年判例と都教組事件との違いは,都教組事件では,「会議議事録,闘争日誌」など比較的詳細な説明的限定的文言が付されている。たしかに,「文書」,「図画」,と記載されているより,「会議議事録」,「闘争日誌」,と記載されている方が限定的効果が高いと解されるわけである。もっとも,このような「文書」,「図画」という文言が常に許されないというわけではない。というのも,上記の注釈の説明で述べたように,結局,差し押さえるべき物の記載が概括的であっても,捜査官の関連性の判断の合理性を担保できる程度に,罪名及び捜索場所の記載が詳細であれば,特定性の趣旨には反しないこともあると解される。物の概括的記載がどこまで許されるかは,罪名や捜索場所の特定の程度と相関する問題であるということができよう。このように,捜査官側が物を具体的に特定して表示できないとしても,それは特定がされているかという判断にとって決定的ではないと解される。結局,特定性が要求されるのは,被疑者などの対象者のプライバシーの利益を保護するための要件であるので,そのこととの利益の均衡を考慮して,被疑事実の特定が必要であるかを判断していかなければならない。
[8] 上記注釈と重複することになるが敷衍して説明したい。この点,「被疑事実を具体的に明らかにしたところで,差し押さえるべき物の特定が抽象的であることに変わりはないので,なぜ目的物が特定されるのが疑問であるとする見解(三井)がある。たしかに,令状主義の趣旨が特定性を要求しているところ,本件の内容を明らかにしても,関連性の有無の判断が捜査機関に委ねられてしまうと,「正当な理由」を予め裁判官が審査することはできず,裁判官が認めた物に対してのみ処分を許そうとする令状主義の要請は損なわれてしまう。しかしながら,被疑事実を具体的に特定するとそれとの相関関係によって,関連性の範囲が自ずと絞り込まれてくる。そうすると,限られた範囲でしか関連性がないという意味において,裁判官がその範囲の物の処分を許すということはあり得ることと考えられる。したがって,被疑事実を含めた令状の記載から合理的に判断して,それを読み取ることができ,目的物に該当する物としない物とは通常誤りなく判別することができる場合には,「本件に関係ある」という記載を用いることも直ちに許されないわけではない。
[9] この場合は,捜索の妨害を排除するための「必要な処分」(222条1項,111条1項)という位置づけとなるのであるから,「場所に対する捜索の妨害行為」があることが必要な処分をするための要件となると解される。そこで,いかなる場合に,「場所に対する捜索の妨害行為」にあたるかが問題となる。この点,「場所に対する捜索の妨害」というには,そこに居合わせた者(居住者であるか第三者であるかは無関係である)が,「捜索の実施中あるいは捜索の目的物をその身体に隠匿したと疑われる状況」が必要であると解される。もっとも,そのような状況があれば,「必要な処分」は肯定されるが,あくまで予測判断となるので結果的に間違っていたということはあり得るが,それは「必要な処分」の要件がなかったということにはならないものと解される。
[10] 川出・前掲百選は,本決定について,「最高裁は,それが適法となる理由を示していないため,本件捜索を,場所(という概念)に対する捜索自体と見たのか,それとも,執行のために必要な処分と見たのかは必ずしも明らかではない」とする。そのうえで,「捜索場所の居住者であった被告人が携帯していたバッグを捜索したというものであり,私見によれば,場所に対する捜索自体として捉えられるものである。そして,被告人の挙動から見て,バッグの中に捜索の目的物が入っていた可能性が肯定できるから,その捜索が必要性を欠くものとはいえない」とする。
[11] 令状による捜索の範囲について敷衍して説明しておくことにしたい。
(1) この利益状況を理解するためには,まず,令状の特定性の問題を意識する必要がある。そうすると,法は令状においてその範囲の特定をある程度厳格に求めているので,「当該捜索場所に在所する一切の人に身体及び所持品」という記載をしてしまうと令状の特定に反してしまい,憲法35条に違反しかねない。しかし,このように記載できないことによって,捜索場所に人がいるという場面を想定すると,捜査官が彼らの所持品を捜索できないとすると,捜索場所にある物を自己の身体に隠匿し,逃走してしまうというおそれもある。もしこのような事態に陥れば,そもそも捜索の目的自体を達成することができなくなってしまうということになる。そこで,捜索の目的を達成させるという利益と第三者など裁判官の令状審査でスクリーニングされていない人身の利益ないしプライバシーの利益に対する制約をどのような見地から調和させればよいかというのがここでの問題とされるわけである。
(2) この点,原則として,場所に対する令状では,場所と場所に置かれている物に対してしか射程距離が及ばないということになる。もっとも,それでは,捜索の目的を達成することができない。ここで注意すべきなのは,原則に対する例外として,第三者の身体に対する捜索を認めるにしても,どのような形式論を用いるかという問題と,その形式論を用いたときに第三者の人身の自由ないしプライバシーの利益との均衡を失していないかという実質論の2つの視点から考察する必要があるという点である。
(3) そこで,まず,あり得る形式論としては,「場所」(222条1項・102条1項)という概念をどこまで膨らませることができるかということと,「場所」という概念に含ませるのをあきらめて「必要な処分」(222条1項・111条1項)という構成を採るのかという点である。この点,考えてみると,当然,前者の見解をとった方が,すなわち,「場所」という概念を膨らませるという構成の方が,捜索に対する制約は少なくなると解される。少なくとも,通常の捜索に要求される関連性などの要件を満たす限りは捜索・差押えが可能ということになるので,捜査官サイドからすれば非常に望ましい法的構成といえよう。しかしながら,「場所」という概念に第三者の身体も含ませて解釈をするというのは,二重の意味で無理がある。すなわち,このような解釈論は,法文が「場所」と「身体」を区別している(222条1項,102条1項)ことと整合しないし,しかも,実質的にみても,もし捜査官が第三者の身体を捜索するとそれによって失われる利益である人身の自由ないしプライバシーの利益は,場所に対する捜索で裁判官がスクリーニングした利益とは明らかに異質な利益を含むものといえる。しかるに,「場所」という概念に第三者の身体を含ませるというのは困難であると解される。したがって,第三者の身体を捜索するには,別個の令状が必要という原則論以外に,「場所」という概念に含ませるという解釈を採ることは無理といえるわけである。
(4) では,「必要な処分」(222条1項・111条1項)という構成はどうであろうか。この点,ここでいう必要な処分とは,捜索・差押えの目的を達成するために合理的に必要な範囲の付属処分をいうものと解される(田宮107)。したがって,「必要な処分」という構成を採用する場合は,「場所」の概念を拡大させるという構成を採る場合よりも,第三者の身体を捜索できる可能性は比例原則の適用がある結果,もともと小さなものしかないと解せられる。考えてみると,「必要な処分」といっても,あくまで,場所に対する捜索・差押え手続の一環なのであるから,「場所に対する捜索が妨害されたために,その妨害を排除するのに必要な処分」といえる必要がある。そうだとすれば,現実には,例えば,捜査官が,捜索場所に現在する第三者が捜索場所に置いてある物を腹の中に隠したことを目撃しているなど,現に捜索を妨害し,又は,捜索妨害のために身体に物を隠匿したことが当該状況からして合理的に判断し明白という場合には,「必要な処分」の要件を満たすものと解せられる。しかしながら,私見は,それ以上に例えば,単に「身体に隠匿したと疑われる」抽象的な状況,すなわち,「およそ捜索場所に居合わせた第三者は証拠隠滅をする可能性が高いという捜査官の第六感」のようなものを根拠に「必要な処分」を認めてしまうということになると,それは,もはや,第三者の身体を「場所」に含めたものと同じとなってしまうと危惧するものである。しかし,第三者の身体を「場所」に含ませる解釈は成り立たないということはすでに検討したとおりであるから,やはり,疑いというのは,具体的な事情から合理的ないし明白と判断される必要があるのではないかと考える。この点,寺崎107は,「『必要な処分』の意味は慎重に検討する必要がある」とする。また,田宮107も,「その場にあった物を隠匿した場合やそれが合理的に疑われる場合」に緊急の原状回復手段として許されるにとどまるとする。いずれも,「必要な処分」の拡大は適当ではなく,付属処分であるということを自覚せねばならないとする私見と同趣旨であると解されるので正当といえよう。結局,このような問題に直面した場合は,まず,捜査官が必要な処分をするにあたりどのような捜索妨害行為を認識したのかの具体的事情を明らかにしたうえで,その事情から,第三者の捜索妨害行為があったと推論するのが合理的であり明白といえるかという視点から精査することになるものと考えられる。特に,上の整理の図からすれば,特に,被処分者の身体の捜索ということであれば,捜査妨害で緊急の原状回復措置が肯定される場合もあることも多いであろうと考えられるが,必ずしも,第三者の場合はそうとは限らないであろうから,「必要な処分」の要件を満たすかどうかは慎重に判断されてしかるべきもののように思われる。
[12] A説とB説の対立は,利益衡量上の視点をどこに置くかという点が筋の分水嶺である。B説は,222条1項・99条1項が要求する「被疑事実との関連性」という要件に重点を置いている。この見解の背景には,判例のように令状の記載の程度が緩やかにされていることの正当化は,関連性の要件の判断が適切に行われることと相まって実現されると解していると思われる。したがって,この見解は,証拠物を差し押さえることについて,関連性が要求されるのは,憲法35条の要請と考えるものと思われる。そうだとすれば,このような重要な要件を「情報が記載されている蓋然性」で代替することができるとすれば,関連性がない場合でも差押えを認めるということになり,憲法の要請にもとり,ひいては一般的探索的な捜索・差押えを認めかねないと考えているように思われる(演習126は,「憲法35条の『特定性の要請』から,差し押さえの対象は,被疑事実との関連性が認められ,かつ,令状の記載に合致する物件に限られる以上,本件に関係ある情報が記録されている蓋然性があるにとどまるディスクは,令状に記載された物件に該当しない」とする)。このような視座からB説をみると,たしかに,警察署などへ運搬して関連性を確認してから差押えを行うということになり,関連性のなかったものは事実上返還するということになる。関連性があるということが現実に確認されてから差押えを認めることによって憲法35条の要請を満足しようと考えるわけである。
これに対して,A説がB説を採用しない理由は,実践的な視点に基づいている。すなわち,A説は,B説を「『必要な処分』の中に実質的に差押えを読み込み,他方で,実質的な差押えを『必要な処分』だと解して,被処分者の権利保障を顧みない結果を導く」(寺崎117)と非難している。すなわち,A説は,差押えが強制処分であることにかんがみ,その実体的適正を確保するためにも,手続の履践が重要という視点を有している。したがって,B説によると,「必要な処分」がされた段階では,準抗告もできないし,押収目録の交付も持ち出す際に実際上は可能であるのにこれを交付しないことを認めるという点で,特に,被処分者の不服申立ての利益ないし適正手続権を軽視しているという批判と思われる。たしかに,警察署へ運搬後に差押えの手続が行われれば,準抗告は行うことが可能であるが,果たして,押収目録の交付なしに捜査機関が被処分者が管理する物の持ち出しを認めるのが,120条の趣旨に即しているかについては,疑問なしとしないであろう。
[13] 相当性説と緊急処分説は完全に相対立するものではなく,「逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が高い」という認識は両説が共通して持っているものである(寺崎118)。そして,「目の前で逮捕行為が行われたために,ある程度は令状審査の必要性が減退していること」も両説の共通認識となっている。問題は,それだけで足りると解するのか,さらに,緊急処分説的な説明を付け加えるのかという点にある。そして,かかる説明を付け加えるか否かは令状主義に対する理解の違いが影響する。相当性説は「令状に基づく」捜索の一環と位置付けるので,それ以上の限定は不要と理解するのに対して,緊急処分説は,逮捕に伴う捜索・差押えは,「令状主義の例外」と位置付けるので,令状主義の例外を認めるのに合理的な事情がある場合,すなわち,緊急な場合に限られると解するわけである。すなわち,証拠存在の蓋然性が認められたとしても,令状主義の例外と位置付けている以上,証拠存在の蓋然性があったとすれば,「令状を請求すればよい」という発想となるので,令状主義の例外が認められるという論拠には直ちには結びつかず,緊急性を媒介させない限りは,例外を認めることはできないと考えられる。
[14] 大澤は,緊急処分説からは当然だが,相当性説からも「被疑者が現場にいないにもかかわらず,逮捕に伴う捜索・差押えをすることは許されない」と主張する。たしかに,相当性説の根拠は,証拠存在の蓋然性があるという点に求められるところ,被疑者が現場にいないのであるから,裁判官の令状審査が不要なほどに,当該場所に証拠物が存在する蓋然性は認められるか疑問といえる。そうすると,相当性説も,「被疑者が現場にいるから相当性がある」というのが論理的な帰結になると解される。したがって,36年判例は首肯しがたい見解というべきである。しかも,仮に,「被疑者がその後帰宅することがなかった」という事態を想定してみるとどうであろうか。被疑者の家に被疑者が帰ってくるかは偶然の事情ともいえる。このような偶然の事態で捜索・差押えの適法性が左右されるのは相当ではない。
[15] 東京高判は,いかなる理由で「逮捕の現場」にあたるのかは必ずしも明らかではない。この点,寺崎102は,被疑者の支配可能性を実質的に解することを根拠としているのに対して,大澤は,これを正当化するには,①承諾捜索差押えがあった,②共犯者による証拠破壊の緊急性があったから,③逮捕された被疑者とは別の同室者に対する逮捕に伴う捜索の着手前実行―という筋が考えられるとする。しかしながら,同室者が逮捕されたのは,捜索差押後の1時間20分ないし1時間45分後と時間的な変動が大きいので③の筋によるのは相当ではないと解される。
[16] このようなケースでは,①その場で差押えをすることができない特殊事情がない場合,②連行した場所が最寄りの場所ではない場合は,違法となる
[17] 最高裁の説示は,解釈論上の難点を回避しつつ,最寄の警察署が「逮捕の現場」とはいえない場合でも判示のような要件を満たせば,なお捜索が許されるとしたものと説明される(調査官解説)。
[18] ただし,この見解は,様々な理論的背景がありそうであり,自説にするのは躊躇されるものである。まず,大澤は相当性説な理解があり,緊急処分説的な理解からすれば,時間の経過に加え場所の移動があるにもかかわらず,無令状で捜索を行うことができるという点は疑問がある。そうだとすれば,最寄りではない警察署に移動した場合は,差押えはすでにできなくなっていると解されるので,それに伴う移動も必要な処分と解するのは相当ではないように思われる。結局,緊急処分説と整合的なのは,「現場」の概念を拡張し,「逮捕の現場といえるような合理的な場所的範囲」にあるかどうかを検討されるべきように思われる(寺崎121が引用する大阪高判昭和49年11月5日判タ329号290頁)。このような視座からすれば,その思考手順は田宮説に近いものがあるわけであるが,田宮説のように解すれば,いかなる距離を移動させても「逮捕の現場」にあたるとされかねないので,緊急処分説と整合しないように思われる。先述した大阪高判の理解が「最寄りの場所」への連行を条件とする最高裁とも整合的といえよう。