弁護士コラム

刑事訴訟法

証拠調べ手続

第20編 証拠調べ手続

* 公判前整理手続を経た公判審理

公判前整理手続において策定された審理計画に基づいて審理が行われる。証拠調べ手続の冒頭で争点の内容が明らかにされ,その後,まず,公判前整理手続において証拠決定された証拠が取り調べられ,当該事案におけるいわゆる動かし難い事実などが明らかにされる。その後,具体的争点に関し,証人尋問や被告人質問が行われる

⇒ 公判前整理手続における争点や証拠の整理が,証拠の構造を反映した適切なものとなっていれば,訴訟当事者の公判活動は,重要な事実に関する証拠の信用性や証拠価値の評価に的が絞られる

 

1 冒頭陳述(296条,規則198条,316条の30)

① 裁判所に対して証拠調べの冒頭において事件の全貌を明らかにして,審理方針の樹立と証拠調べに関する適切な訴訟指揮を可能にする資料を提供する

② 被告人側に対しても,具体的な防御の対象を示すことによって防御の便に資するものとなり,もって無駄のない充実した審理を行わせようとする

 

* 高野弁護士のコメント

「研修所で習ったとおり,供述の変遷や間接事実について一生懸命書きました。でもそれは実は裁判官の書く判決書にあわせた弁論なんです。よく考えて欲しいのですが,裁判官は判決書の中で事実認定をしているわけではありません。事実はその前に認定されていて,判決は自分の結論を正当化するための文章にすぎません」「実際に心証にインパクトを与える事実はまったく別のところにある・・・人間は『間接事実によって主要事実を認定するのではない』ということです。裁判官であれ陪審員であれ,人間の事実認定に最も大きなインパクトを与えるのは,訴訟当事者が訴訟を通じて提供する『物語』です」

* 高野嘉雄弁護士のコメント

「やっぱりこちら側のアナザー・ストーリーを立てて,検察官が言っているストーリー性のまやかしがどこにあるかということをやらなければならない。そうすると,検察官立証の弱点というかゆがみが分かってくる」

「甲山事件でいえば,あの事件を殺人事件として捉えるべきか否か,事件性があるのかということが問題となる。私は,園児が関与した事件であり,殺意のない事故であるというストーリーを考えた。犯行現場とされている場所が子どもたちのいるデイルームの直近だったし,マンホールというのは殺す場所ではなく死体を隠す場所です」「マンホールへ放り投げて殺すというのは,通常の感覚の殺人犯はしない。まして亡くなった子どもは精神に遅滞がありその子どもを殺すことにメリットのある保母はいないはずである」「そうすると,園児が意識的に被害児童をマンホールに入れようとしたが殺そうとしたわけではないというのが一番自然なストーリーになる」「そこに無罪となった元・被告人が関与する余地はない」

2 検察官による証拠調べの請求(296条1項,規則193条1項)

(1) 当事者主義の表れ

当事者主義からすれば,当事者である検察官が証拠の取調べの請求をしないと前に進まない

(2) 証拠調べ請求の時期の制約

自白を内容とするものは,犯罪事実に関する他の証拠が取調べられるまではその取調べを請求することはできない(301条)

∵ 自白に補強証拠を必要とする憲法38条3項の精神

(3) 立証趣旨の明示(規則189条1項)

∵ 裁判所が証拠の採否に当たって参考にするためと,相手方の防御の準備に資するため

* 立証趣旨に拘束力があるか

○ 拘束力はないとするのが多数説

⇒ 立証趣旨によって証拠能力に差異が生ずる場合(例えば,証拠の証明力を争うために提出された法328条の証拠の場合,訴訟条件の立証として提出された証拠の場合)や,特に立証趣旨を限定して同意がなされている場合(例えば,甲罪に関する証拠としてのみ同意するとか,情状に関する証拠としてのみ同意するなどの意見が述べられた場合)には,立証趣旨の範囲を超えて犯罪事実の認定の証拠とすることはできない(1審解説51)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 証拠調べ請求に対する意見など

(1) 326条の同意の対象となるもの

ア 同意する場合

証拠能力が原則付与

イ 同意しない場合

相手方が不同意であれば,請求者は請求を撤回するのが一般

⇒ 請求者は,必要に応じてその書面の供述者,作成者を証人として尋問請求

* なお,不同意となっても,法321条ないし324条,328条を根拠として証拠調べ請求がなされることがある。この点,弁護人は,「異議なし」,「しかるべく」,「特信性がない」,「任意性を争う」などの意見を述べる

(2) 326条の同意の対象とはならないもの(証拠物,検証,証人尋問,鑑定に関する証拠調請求)

相手方は,「異議なし」,「しかるべく」,「不必要」などの意見を述べる

* よく問題となるのは,「凶器として用いられた包丁」である。これは,弁護人が犯人と被告人との同一性を争っている場合に「関連性なし」の意見を述べることが考えられる。この点は検察官が「現場に落ちていた包丁」に立証趣旨を変更させて証拠採用することが多いとのことである。

4 証拠決定(298条2項,規則190条1項)

例えば,法321条1項2号後段の相反性の要件を検討するために,訴訟関係人に証拠書類又は証拠物の提示を求めることができる(提示命令,規則192条)

 

5 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件の特例

(1) 必要的弁護事件

289条1項に該当しなくても,弁護人がなければ開廷できず(法316条の29)

(2) 弁護人の冒頭陳述

弁護人の冒頭陳述が義務的(316条の30)

(3) 失権効

当事者は,やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったものを除き,公判前整理手続が終わった後は,新たな証拠調べ請求をすることができない(法316条の32第1項)

* 裁判所は,必要と認めるときは職権で証拠調べできる(同2項)

(4) 証拠等関係カード

ア 記載

証拠調べの経過は,すべてカードに記載される

⇒ カードをみれば,何回の公判前整理手続期日あるいは公判期日などに当事者からどのような証拠調べ請求がなされたか,それに対する相手方の意見はど うであったか,その請求された証拠についての裁判所の決定があったかどうかなどのほか,期日においてその証拠の取調べが終わったか-が分かる

イ 分類 検察官,弁護人,職権請求分に分類

 

6 証拠調べの施行

(1) 順番

① 取調決定のあった証拠書類及び証拠物⇒② 証人尋問⇒③ 被告人質問

(2) 争いのない事実

誘導尋問,同意書面や合意書面の活用など,当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めるべき(規198条の2)

(3) 犯罪事実に関しないことが明らかな情状事実

証拠の取調べは,犯罪事実に関する証拠の取調べは,犯罪事実に関する証拠の取調べとは区別して行うように努めなければならない(規198条の3)

7 証拠について

(1) 証拠書類(305条)

証拠書類は,書面の記載内容だけが証拠となる点で,記載内容のほか,その存在及び状態も証拠となる証拠物たる書面(307条)と区別される

(2) 証拠物(306条)

証拠物とは,その存在及び状態が証拠となる物件をいう。なお,証拠物たる書面の取調べの方式は,朗読又は要旨の告知及び展示(307条)

(3) 証人尋問(一般論)

ア 証人の意義及び性格

証人とは,裁判所及び裁判官に対して自己の直接経験した事実を供述すべき第三者をいう

* 証人の供述を証言という

* 自己の直接経験した事実である限り,特別の知識によって知りえた事実でもよい(法174条,鑑定証人)

* 証言は,自分の体験した事実により推測したことでもよく(法156条1項),その場合,特別な知識経験に基づく推測であってもかまわない(156条2項)

イ 証人の権利義務

(ア) 証人の権利

① 証言拒絶権(146条,147条,149条)

② 旅費などの請求権

(イ) 証人の義務

① 出頭

② 宣誓

③ 証言の義務

ウ 証人の保護

① 証人の付添人(157条の2第1項)

② 証人と被告人・傍聴人との間の遮へい措置(157条の3第1項)

* 被告人・証人間の遮蔽は,弁護人が出頭している場合のみ可能

③ ビデオリンク方式による証人尋問(157条の4第1項)

④ 被告人・傍聴人の退廷

⑤ 証人などの所在場所に関する尋問の制限(295条2項)

[検討課題 証人の保護という視点から]

第1 問題の所在

1 証人の定義

証人とは,自己の体験した事実及びその事実から推測した事項を供述として提供する者をいう(156条1項)

 

2 証人に対する訴訟関係者の関心

(1) 大命題

的確な供述を得ること

⇒ 証人に出頭・宣誓・証言の法的義務を課す(143条ないし154条・160条ないし162条)

* 証人を証拠方法として見ている

(2) 検察サイドが心配すること

① 証人に対する不当な働きかけがされること

② 証言すること自体を萎縮させる自体が生じること

(3) 弁護サイドが心配すること

① 証人審問権(憲法37条2項)が保障されること

② 証人の供述内容について信用性を弾劾する観点が重視される

(3) 裁判所が心配すること

① 適正な証人尋問の実施

② 正確な心証形成

第2 証人自身の関心という視点

1 大前提

証人は単なる証拠方法ではなく,基本的人権を尊重される個人(憲法13条)

⇒ 証人の情操や名誉などの人格的利益や生命・身体に対する配慮という観点からもバランスを取る必要

* 犯罪被害者への配慮と保護の要請があること,組織的犯罪対策から証人の生命・身体の安全の利益の保護の要請があること-から上記3の視点が意識されるように

2 証人の精神的負担を軽減する利益

(1) 従来からあるもの

・158条

・281条

* 証人の精神の平穏の保護については,公判期日外尋問の実施を検討するについては従前より一層慎重な判断が要請されるべきであり,運用上はまず,遮蔽やビデオリンク方式の尋問を検討すべき(争点150)

(2) 2000年改正で導入されたもの

ア 証人への付添い(157条の2)

(ア) 要件

① 証人の年齢,心身の状態その他の事情を考慮して,証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるとき

② その不安又は緊張を緩和するのに適当と認める者であること

(イ) 効果

証人の供述中,証人に付き添わせることができる

イ 証人の遮へい(157条の3)

(ア) 要件

① 犯罪の性質,証人の年齢,心身の状態,被告人との関係その他の事情により,証人が被告人の面前において供述をするときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合

② 相当と認めるとき

(イ) 効果

被告人とその証人との間で,相手の状態を認識できない措置ができる

* 弁護人出頭の場合に限られる(157条の3ただし書き)

∵ 証人審問権の保障

* 遮へい措置は,証人の尋問中,被告人が同じ法廷内に同席しており,被告人も証人の供述をリアルタイムで聞くことができる。また,弁護人は直接証人の姿,挙動動作を確認することができる。したがって,遮へい措置は,反対尋問権に対する制約は弱いということができる

* 証人が客観的には復讐の心配がないのに過度に狼狽している場合

原則は,検察官を通じて当該証人に対する証人の認識が客観的な状況と異なることを理解させることに説明・説得をつくすべき。問題はそれでも状況が変わらない場合である

A説 遮へい措置肯定説

∵ 証人保護という制度趣旨

B説 遮へい措置否定説

∵ 被告人側の反対尋問権を制約する面があるから拡大解釈は不当

C説 角田説

証人の畏怖が根拠のないものであり,遮へい措置を採ることが相当ではない場合があることは否定できない

角田説は,被害者と目撃者を区分して,被害者については一度被害を受けているのでその主観に重点を置いて判断をするということも考えられるが,第三者証人との比較では厳格に考えることになる[1]

ウ ビデオリンク方式による証人尋問(175条の4)

(ア) 要件

① 条文に列挙された性犯罪の被害者であること

①’犯罪の性質,証人の年齢,心身の状態,被告人との関係その他の事情により,裁判官及び訴訟関係人が承認を尋問するために在席する場所において,供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者であること

② 相当と認めるとき

(イ) 効果

法廷のある裁判所と同一の構内の別室からのビデオリンクによる通話の方法

* ビデオリンク方式は,圧迫の原因は被告人及び傍聴人のみではなく,『公判廷という特殊な場・環境』において証言することに起因する圧迫を回避・軽減するという側面も加わる

3 証人の生命・身体の安全の利益の保護

(1) 従来からあるもの

・刑法105条の2

・刑訴法89条5号・96条1項4号

・81条

(2) 法律改正

ア 証人の住居などの秘匿

・ 295条2項

・ 299条の2

イ 反対利益の調和の観点

弁護人の立場からは,証人審問権・反対尋問権行使のため尋問事項によっては,証人の住居を知ることが不可欠な場合あり

⇒ 295条2項ただし書き,299条の2

エ 証人尋問の順序,手続

オ 証人尋問の方法

 

 

 

 

 

 

 

 

(4) 許されない尋問の方法

ア 誘導尋問

誘導尋問とは,質問者が希望し又は期待している答えを暗示する質問をいう

* ただし,例外的に規則199条の3第3項に該当する場合は,誘導尋問をすることが許される(実務上は,「証人の身分,経歴,交友関係などで,実質的な尋問に入るに先立って明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき」及び「訴訟関係人の争いのないことが明らかな事項に関するとき」の2点が頻出)

* 反対尋問においては,誘導尋問は一般的に許容されている(規則199条の4第3項)

イ 誤導尋問

典型例は,犯人らしい男の特徴が被告人の特徴と一致しているかが重要な争点の一つとなっているが,目撃者は,未だ犯人らしい男の服装について何らの供述もしていない段階で,検察官が目撃者に対して,「雀荘前の通路で黒色の革ジャンパーを着た男性を見たのは,何時ころですか」と尋問する場合が挙げられる

⇒ 誤導尋問は,誘導尋問の一種であるが証人が認識・記憶していることとは異なった証言をする危険性が特に高いので,このような尋問は許されない

ウ 威嚇的又は侮辱的尋問

エ 重複尋問

オ 意見を求める尋問(規199条の13第2項3号)

証人には,経験した事実に基づき推測した事項を証言させることが限度である。それを超えて,経験した事実に基づかない単なる意見を述べさせることはできない

カ 議論にわたる尋問(規199条の13第2項第3号)

キ 直接経験しなかった事実についての尋問(規199条の13第2項4号)

伝聞の供述を求める尋問は,相手方の同意がない限り許されない

ク 書面を提示しながらの尋問(規則199条の11第1項2項)

書面を示すことによって証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないようにする必要がある。この点もメモを読み上げている,つまり,書面を朗読するにすぎないというのであれば,伝聞法則の適用があるということにもなる。

読まなければ何も言えないというのであれば,そもそも,メモを321条1項3号で証拠調べ請求をするということも考えられるが,3号は要件が厳しいので,基本的には2号書面を出す前提として,メモを書いた人を証人として取り調べるのが基本線であるといえよう。裁判官は証明力の問題として処理することが多い。あるいは,メモをしまわせて反対尋問を十分にやってもらうということでクリアすることが多いように思われる。

許可がないのに書面を示してしまったときに証拠排除をするかは問題となる。この点については確立した証拠排除のルールがあるわけではない。だが,証拠排除をするというのであっても,公判調書からは削除はしないとのことである。これはその裁判体は証拠能力がないと判断したものであるが,証拠排除するということもあり得ると思われる。

 

(5) 被告人質問

被告人の供述は,利益不利益を問わず証拠となる(法322条2項)から,被告人質問も広い意味で証拠調べの性質を持つ

⇒ 被告人質問の方式は,証人尋問の方式(規199条の2以下)にならって行われることが多い

* 特に証拠調べの請求,決定などはなされず,宣誓手続もなされない

 

* 後藤貞人弁護士のコメント

「尋問技術については,検察官のレベルが確実に上がると思います。今までは,検察庁は,公判立会い検事なんて誰でも良かったのです。なぜなら,2号書面があるからです。刑訴法321条1項の2号書面の出し方さえトレーニングをしておけば,検察官調書に沿って聞いていって異なることを言ったら,検察官調書を出せば良かったのです。でもこれからは,それだけでは裁判員を説得できない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



[1] そもそも,遮へい措置やビデオリンク方式の尋問の導入は,被害者の基本的人権,具体的には,名誉権や精神の情操を保護する目的で創設されたものである。逆に言えば,生命・身体の安全の利益については,別個の制度の利用,例えば,尋問事項の制限が活用されるということが予定されている。したがって,このような観点からすれば,生命・身体の安全の利益のために,遮へい措置やビデオリンク方式を導入することはできないとするのが筋であるように思われる(同旨,川出敏裕『わかりやすい犯罪被害者保護制度』)。もっとも,生命・身体の安全の利益に対する危険が精神の情操に対しても多大な影響を与えることもある。特に,精神の情操は,客観的にはそのようなおそれがあっても,それなりの根拠があれば不安感や危惧感を生じるものと考えられ,これらを保護することができないとする理由はないように思われる。したがって,原則としては尋問事項の制限などで目的を達成するようにするべきであるが,それに加えてなお遮へい措置が必要であるかは別個の問題のように思われる。

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