弁護士コラム

刑事訴訟法

是枝監督の「三度目の殺人」と刑事弁護人の福山さんを観て。

是枝裕和監督の「三度目の殺人」をみた。豪華キャストによる心理サスペンスという触れ込みのようだが、内容は、弁護士の仕事のリアルが入っているだけかな、と思いました。

三隅が正確には「3人目」の殺人の再犯をするストーリー。私の場合、名古屋では、2人殺害の前科があっても、刑期満了後であれば無期懲役をベースラインとするかな、と思ったので量刑判断の実際とは異なる違和感がありました。結局、結論からいうと、「あまり見なくてもいい映画」ということです。是枝さんと福山さんというと「そして父になる」などを思い出しますが、自称心理サスペンスということもあって、ハテナの連続でした。

もっとも、なにかしらの手順を踏んでも、是枝さんの司法に対するパースペクティヴである「真実を発見する場ではない」というアイロニー。それも最後の「死刑判決」で吹っ飛んでしまいました。何かフカイイ話しで減刑や無罪になる方がドラマとしては、取材が必要だし、エンターテイメント性もあるのかなと感じました。

しかし、心理サスペンスといいますが、弁護士が殺人の被告人と心理戦を展開するということはありません。そもそも「三度目の殺人」で述べるような「事実と向かい合うこと」、つまり「内省を深める」ということは日本の立法政策は求めていないのです。ただ、福山さん演じる重盛弁護士のような仕事をしているとまず精神衛生によくありません。実際、重盛は自らの離婚問題を抱えているようでしたが、そういう精神衛生にならないために裁判員は複数でやることになっています。心理的負担や標的も分散されるようになっているのです。そして私たち弁護士を含む職業は心理的な撒き込まれを防ぐために、対象者とは適正距離を保ちます。ですから心理的な駆け引きをすること自体あまりなく、中にそういう人がいても客観弁護をするということになってしまうと思います。弁護人は被告人からの独立性が強く被告人の利益になるのであれば、必ずしも被告人の主観的意思にそぐわなくても仕方がない、と考えられています。

まず、私が弁護をするときは初回のインテーク意見を大事にします。迷うと最初の感想が一番的を射ていることが多いからです。また、被告人には不合理な人も多いので、駆け引きをしてきても「そういうパーソナリティなんだ」と受け容れて、そのこととは適正距離を保ちつつ法的な仕事を進めます。

今回の重盛弁護士の法廷戦術というのは、玄人向けには良いと思いますが裁判員裁判向きかはよく分かりません。私であれば、形而上学的なことより実質を重視して、被告人の言い分を総合考量して決めます。ですから、最初の接見で強盗殺人ということをいわれたら、殺人の故意があるかをよく確認して強盗致死に留めて量刑で無期懲役というインテークをするだろうと思いました。重盛のように法的擬律を変えて争うというのは正統派ですが、プロ裁判官向けという印象を受けます。しかも自白調書が多数存在しているという状況ですからそれらが虚偽だと述べるのであればその根拠を詰めます。重盛のように三隅が「ただの器」に見えてしまうのは、議論を詰めないからです。議論を詰めると「不合理な弁解」というのもなくなります。

結果的に私が映画を見始めたときに持ったインテークで訴訟経営をすれば無期懲役になっただろうな、と思いますし、斉藤由貴との殺人依頼も検察からそのような話しが出ないはずがない、と思いますから、情状要素で使用することは考えます。

結果的に、心理的に捲き込まれた重盛弁護士が最後、弁護士としては残念な判決をもらうという結果になってショックも倍増といったところでしょう。弁護士はどんな悪人であっても自分の被告人には死刑になっては欲しくない、とは考えているところです。

個人的には、社長の娘による親殺しではないか、と考えていて、その犯人を庇うという可能性も推測できるな、と思っていたのですが、どうやらフカヨミし過ぎのようです。日本では合理的殺人というのはあまりないので、アメリカのようにプロファイリングなどの心理証拠に基づく捜査もあまり行われないのです。例えば、サイコメトラーEIJIに出てくるような秩序型・無秩序型などの分析すらいらないCASEが多いのです。

個人的な印象として被告人の方はそんなに合理的ではないから、短絡的な犯行の場合、それほどの動機はないことが多いです。しかし、映画は映画、と思ったのは殺人というのは、実際はかなり深い関係でないと起こらず怨恨といっても、第三者からみてもすぐに分かるような出来事があるものです。それがない場合は、殺人の故意の合理性もないので、精神鑑定すべきだ、という議論になるのではないかな、と思いましたが、詰め切れない映画という意味で、「詰まらない」映画でした。もっと涙があふれ涙がこぼれ・・・というものを期待していた人も多いと思うのですが。それにしても名古屋市役所人気ですね。裁判所の多くは名古屋市役所でした。よほどよくいえばレトロ(悪く言えばぼろっちい。)な雰囲気が裁判所に抱くみなさんの印象に似ているのでしょうね。あるレビューでは、死刑をシステムとして利用したとか、生まれてくるべきではない人と理不尽にゆく人がいる、とかの思考過程がテーマなのですかね。

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