弁護士コラム

理念

労働法制改革と電通事件―総選挙でのテーマ呈示

憲法といえば芦部信喜先生の「憲法」だ。右でも左でもなく公平な叙述にはこう書かれている。「解散は国民に対して内閣が信を問う制度であるから、それにふさわしい理由が存在しなければならない」と。むしろ、先生が指摘する不当な解散の一例が内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散そのものではないか。英国ですら解散に制限がなされ日本国憲法論でも自由に解散ができると解釈する学説はほとんど皆無だ。日本の議会に至っては首長が気に食わないことがある程度では地方自治法の規定により解散できない。

 

安倍首相にはふさわしい理由の説明が必要だが、現実は、森友・加計学園問題への説明を避ける意味合いが強いだろう。前者は安倍昭恵氏が副校長となり安倍氏の主張を広げることを校是とした学校であった。後者は安倍氏の「腹心の友」の加計学園。前者に検察のメスが入り後者にメスを入れるわけにはいかない、「疑惑の内科的治療解散」、とでもいえようか。

 

日本国憲法は、そもそも、議会運営についても、立憲民主主義を採用している。それゆえ、少数者にも配慮しなくてはいけないから、任期までまだ選挙から2年ほどしか経過していないのに、また選挙ということになると、先生のいう解散のふさわしい理由の説明が求められる。

 

さて、労働の弁護士としては、労働法制にも関心があるところである。それは、働き方改革である。安倍政権にしても、希望の党にしても不安に思うのは、企業の収益を通して労働者の給与を上昇させる政策であるという点だ。しかし、現実には給与は上昇していない。今回の解散でも労働法制はイデオロギーで終わらせず、現実的にどのようなビジョンと制度設計思想を持っているかを呈示して欲しい。

 

とかく日本では、本来国が担うべき福祉=ウェルフェアを企業が負担してきた。私も経営者としてそのように思う。労働者も失業すればベーシックなウェルフェア、つまりは厚生年金、健康保険からの脱退を余儀なくされる。そういう意味では、安倍政権の企業の収益を上げて給与を上げようという発想は悪くないが法律で義務付けない限り、小池百合子氏と共産党が主張するように企業の内部留保に課税する合理性が出てくるだろう。

 

しかし、私が考えて欲しいのは、今後は「AI」の導入が進む。効率化と公平性はトレードオフ、つまり両立しないと経済学ではされているから、業種、業態による不公平の是正のためにも、小池百合子氏が主張する、そもそも民進党の政策であるベーシックインカムを考えてみても良いのではないだろうか。

 

ベーシックインカムができれば、企業によるウェルフェアは魅力がなくなり、大企業も中小企業も、製薬会社のような高収益企業も人材集約型産業も、流動性が出てくるのではないか。そして、厚生年金や健康保険もベーシックインカムに取り込むべきではないか。これは、AIを利用し多くの収益が得られる業態とそうではない業態との差異の解消にもつながる。

 

ベーシックインカムに対する批判は近視眼的なパースペクティヴが多いと思うが、将来的に効率化し、少人数で多収益を確保できる業態は絶対に現れるだろう。現在でも利益率の違いは業態でも検証可能なことだ。

 

世の中から労働者はいなくならないが、電通に50万円ぽっちの罰金を支払わせる社説を朝日新聞、毎日新聞が8日でこの事件をとりあげている。しかし、電通のような何兆円を動かす超巨大企業に、東京簡易裁判所が50万円ぽっちの罰金を支払わせ、延々と判決を出すこと自体、何の社会的影響力もない裁判所の自己満足だ。

 

どの企業・団体も長時間労働の是正に本気で取り組むときだ。NHK記者の不幸な事件が続く。

不要な仕事がないか業務の見直しや、IT(情報技術)活用による効率化を大胆に進める必要がある。日本の正社員は職務が曖昧で、これが長時間労働につながっているとの指摘もある。職務の明確化を含め、やるべきことは多い。

 

ベーシックインカムがあれば離職や産休もとりやすい。日本でも社会民主主義的といわず、オランダのユトレヒトのように実験して、失敗するなら失敗してみたらいい。いずれにせよ、AIでラクして収益を上げる企業と低収益企業ながら社会インフラ企業との格差は、今後、問題となる。かけがえのない個人として生き抜くために必要不可欠な権利が基本的人権である。働き方は、そうした基本的人権とも結びつきうるものだ。

 

各党は、労働分野でのビジョンや制度設計思想を十分、経営者や労働者に示すべきだ。

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